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    いまの時代に求められる
    「物語的」編集術

    2019.11.14

みなさん、はじめまして、神戸 陽三といいます。

スポニチの文化社会部を経て編集局長になり、「(紙面を)見せて読ませる」スポーツ紙独特の新聞作りを実践。編集局での約30年間は、エキサイティングな日々でした。

いまは紙媒体の他に映像やネットを主戦場に、ライターや企画者として活動。今年1月にプロの作詞家デビューをしました。言葉の力、意味合いや「時代論」にこだわっています。

令和元年の「時代の気分」は?

先日、令和最初の流行語大賞候補30語が発表されました。

世相や社会状況が沈滞ムードの中で、ラグビーW杯の「桜戦士」が6個もノミネートされています。彼らの突破力が、人々の憂鬱な気分を蹴散らしてくれました。

候補語をいくつか紹介しましょう。

・ジャッカル(チームの苦境を何度も救った姫野選手のプレー)

・ONE TEAM(日本代表のチームスローガン)

・笑わない男(トライを決めても笑顔を見せなかった稲垣選手)

他に気になったのは、イチロ―引退会見のコメント「後悔などあろうはずがありません」、吉本芸人の「闇営業」など。

ちなみに昨年(2018年)の流行語大賞は「そだねー」でした。

これらの文脈や言葉の背景、つまり「時代の気分」を探ることは、「物語的編集」の味付けや説得力に繋がり、絶妙なスパイスになると期待大です。

篠山紀信の時代の写し方

ちょっと時代を戻してみましょう。

「時代と寝た女」

この衝撃的な言葉は、山口百恵さんが1980年に芸能界を引退する際、デビュー時から撮り続けていた写真家・篠山紀信さんが、雑誌に書いたものです。

百恵さんは14歳でデビュー、21歳で結婚を機に引退。「国民的スター」と言われました。

「時代と寝た・・」という表現について、篠山さんはΓそれは時代が山口百恵を必要とした」と、直截に語っています。

「時代と寝た・・」は多くの人、とくにクリエイターや編集者などに衝撃を与え、表現と時代の関係が活発に議論されました。

私は篠山さんが「激写」のタイトルを発表されたときにインタビューし、熱弁を振るわれた思い出があります。

篠山さんはご自身の撮影法について明快。「物語的編集」の手法にピッタリです。

「時代が生んだ面白い人・こと・物、そういうものに僕は積極的に寄っていって、一番いい角度から、一番いいタイミングで撮るというのが、僕の一番いい写真だと思うんです」(小学館CanCam 公式サイトより)

スキルアップを実践・提案する現場の変化

「時代の気分」や「いま」が語られない発信は、フォロワーの反応が鈍くなります。

そのためか、例えば多くの「編集力」アップの本に、変化が見え始めています。発信者のビジネスモデルや依頼者のコンセプトがはっきりしていることも、変化の理由です。

篠山さんが力説した「時代が生んだ面白い人・こと・もの」へのこだわりは、「回り舞台」のように、時代を多角的に捉える方法として、再び注目されることでしょう。

情報の拡散は劇的に早く、他人との情報の共有も加速度的。発信ツールも進化します。

「その日の出来事」の無限大の蓄積としての「時代」、その中から情報をどう伝えるか。

いま何が起こっているのか。人々は怒っているのか、愉快なのか。新鮮なファクトが盛り込まれないと、新聞の場合でも読者が離れていきます。

メディアの現場も日々、挑戦や冒険、進化が求められます。なんだかワクワクしませんか。

「あいみょん」と「エモい」。異色なキャラの紡ぎ方

画像出典:Amazon

シンガーソングライタ―で作詞・作曲家の「あいみょん」とスラング「エモい」。

不思議な素材やキャラを物語に組み立てるのも、挑戦的で面白いかも知れません。

もちろん全体の着想(コンセプト)やコンテンツなど、基礎的な枠組みがあってのことです。

「エモい」は英語の「emotional」を由来とした、「感情が動かされた状態」、「感情が高まって訴えかける心の動き」などを意味する日本のスラング(Wikipedia)

あいみょんと彼女の歌は、"デジタルネイティブ"といわれる10代、20代の女性に大人気。「エモいが一番似合う」と声を震わせ、ネットでもこの不思議な言葉が飛び交っています。

あいみょんは男女の恋愛というより、情念の世界を切なく歌っています。昨年の紅白に初出場。

私がビックリしたのは2015年のデビューシングル『貴方解剖純愛歌~死ね~』。

男目線で「あなたの両腕を切り落として 私の腰に巻き付ければ・・」他の女を抱くことはできない、と過激で刺激的。

発売当時は各ラジオ局で強烈過ぎて自粛されたほどです。

あいみょんは時代の"イガイガ的"存在。

「エモい」は強烈を超越してシュール

強い個性を持つものを、物語を紡ぐように組み立てるには、編集者のイマジネーションや修辞的センスが必要です。編集は冒険の世界に踏み入らなければなりません。

時代の活写には、時としていろんな編集的仕掛けが必要なようです。

その日の「神さま」探しを唱えた阿久悠

画像出典:Amazon

阿久さんは1979年から2006年まで、夏の高校野球から一試合を選び、「甲子園の詩」をスポニチで連載。その2年前には小説「ゴリラの首の懸賞金」の連載もされました。

スポニチとの親交は長く紙面作りについては、その日の「神さま」探しを提案されました。

その日の神さまとは、様々な取材ジャンルの中で

・一番感動した人、怒った人、泣いた人、笑った人、

・世間を騒がせた人、スキャンダルを起こした人

・突出した出来事や状況の主人公

神さま探しから物語(紙面)作りが始まり、探し当てた人物にうねりがあるほど、ストーリーは膨らみ、生きる鼓動が伝わりました。

「昨日より今日」「今日より明日」。阿久さんは事象の継続性と前進、時間の連続性、つまり「時代を読む」ことを訴えられました。

作詞家としては、それまで「女」として描かれ、「どうせ」や「しょせん」を使わない女性像を創出。背景には時代論があり、歌作りへの挑戦がありました。

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時代はめまぐるしく動き、まるで乱反射しているようです。

「物語的編集」にとっては、好奇心に満ち、おもしろい時代。

いくつもの「なぜ」や、喜怒哀楽の輪郭を鮮明にして、感情の直進性を推し進める。

その時、送り先で何かがはじけたら、物語が始まるサインかも知れません。

神戸 陽三

スポニチや関連会社を退職後、5年前に「メディアコンテンツ神戸企画室」を立ち上げ、テレビの企画や紙媒体・サイトの原稿執筆、大手プロダクションのプランナーとして活動。今年1月にはプロの作詞家としてデビュー。省略と誇張の四行詩にこだわっている。スポニチに入る前はテレビディレクターとして、ドキュメンタリーを手掛け、アマゾンの奥地など世界20ヵ国を飛び回る。記者時代は突撃の手法で、芸能史に残るスクープを残した。「公益財団法人 情報通信学会」会員。趣味は哀愁漂うファドを聴くこと。

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