書籍編集者やベンチャー企業社員を経て、講談社「現代ビジネス」「マネー現代」の編集者としてヒット記事を生み出し続ける滝 啓輔さん。
編集の仕事をする中で、他の仕事にも共通して重要だと考えた「編集的視点」とは。
また、業務の中で行なっている企画立案やタイトルづけで大事にしているポイントについてもお話を聞いた。
媒体に合う「問題解決」のサイズがある
−−滝さんは書籍の編集者からWEB記事の編集者となりましたが、紙からWEBメディアへのギャップは大きかったのではないですか。
その質問にお答えする前に、少しだけキャリアを振り返ると、僕は大学卒業後に編集プロダクションに入って、その後、出版社に移りました。
ずっと書籍の編集者をしていたのですが、ある時、担当していた著者の方が立ち上げたベンチャー企業で働くチャンスを経て転職。
ただ、僕の力不足で1年もまたずに再度書籍の編集者に戻り、縁あって今は講談社の「現代ビジネス」「マネー現代」というニュースサイトの編集者をしています。
2年前に紙からWEBへ転向したわけですが、ギャップという意味では、それよりも書籍から雑誌的なメディアへのジャンプが大きかったように感じます。
僕はこれまで雑誌には関わったことがなかったんです。書籍と雑誌がどう違うかというと、まずは企画の量。
書籍の編集者はジャンルにもよりますが、1ヶ月に1冊程度を担当することが多く、そのペースで回せるように企画を通していくのが基本。
一方で、僕はいま現代ビジネスの編集部の会議で、週に最低3本、記事の企画を出しています。最初は企画の量を出すことに苦労しました。
−−どのようにたくさんの企画を出さなければいけないという問題をクリアしていったんですか。
前提として、まず企画は「問題解決」であると思っています。
読者の疑問や悩みを解消するため、あるいはちょっとした退屈を埋めるためでも、どんな書き手にどんなテーマについて書いてもらうかを考え、記事にすることで、「読者の問題を解決する」のが僕らの仕事。
そして、本から雑誌的なメディアに移ったことで、媒体にはそれぞれ適正な「問題解決」のサイズがあるなと気づいたんです。
書籍として成立しそうな厚みや需要のある「問題」と書き手を、週に3本考えるのはなかなかハードルが高いです。
しかし、WEB記事はもう少しサイズの小さい問題を、短いスパンで解決していくのに適しているのではないかと思ったんです。
それがWEBの記事の特性だと気づいたら、少し肩の力を抜いて企画を出していけるようになりました。
例えば、書籍の場合は「どうやったら後悔しない転職ができるか」という問題を、会社選びのポイントやエージェントとの付き合い方、面接の攻略法など体系的に網羅すべきかと思います。
でもWEBであれば「転職で失敗する人がやりがちな3つの間違い」というように、ピンポイントの問題解決でも成立しうるんです。
媒体に合った適切なサイズを見誤ると、「内容が薄い本だな」とか「いろいろ詰め込みすぎて消化不良なWEB記事だな」といったミスマッチが起きてきてしまうわけです。
企業がお客様の抱える問題を解決するために情報を発信したいと考えたときにも、同様のことが言えると思います。
発信するための手段は、紙媒体を使うこともできるし、会社のWEBサイトへ掲載することもできるしょう。
もっと言えば、動画やSNSもあります。解決したい問題のサイズから逆算して、適切な媒体・手段を選ぶということも、一種の「編集」といえるかもしれません。
すべては「目的」から始まる

−−滝さんは、フリーランスの編集者としても活動していますよね。企業の方から編集についての相談を受けるときにどんなことを感じますか?
オウンドメディアをはじめとするWEBサイトのディレクションなどで、「編集」的な視点から意見を求められることが増えてきました。
ただ、ご相談いただく中で感じるのは、それこそ「外部から編集者を呼んで見てもらえばいい」といった手段から入ってしまっている方がすごく多いということです。
編集者は本を作るときも、記事を作るときも、先ほどお話しした問題解決という「目的」から逆算して、細部を詰めていきます。
例えば本であれば、「読者の○○という問題を解決するとしたら、××という構成がいい」、「コンパクトに知識を伝えるために、ページ数は少なめにしましょう」
「若い世代にまずは見つけてほしいので、このイラストレータのイラストをカバーに入れませんか」など、いくつもの判断を重ね全体をプロデュースします。
1冊の本であっても、「目的」に合った世界を作り上げる一連の作業を編集者は日々行っているのです。
−−目的思考を持つと、企業内での仕事の仕方が変わりそうですね。
そう思います。目的から考えるというのは、何も編集者だけが必要な視点ではないですよね。
例えば、新サービスのWEBサイトにインタビュー形式のコンテンツを盛り込もうと検討したときに、「編集者をよんで見てもらおう」というアクションが必ずしも正解とは限りません。
そのサイトやコンテンツの目的を考えると、社員が編集的な役割を担い、直接ライターに発注して経験・知見をためることのほうがより目的に合うかもしれません。
あるいは、そもそもインタビュー形式にする必要があるのかという視点を持ってもいいでしょう。
大事なのは、はじめに目的があり、そのあとに適切な手段を考えるということ。
もしも、一般企業で働く方でこのような物事の進め方が苦手な人がいるとしたら、一人で全体を見るのが基本の編集者と違い、分業で部分的な仕事を担当するために、俯瞰して仕事を組み立てることに慣れていないのかもしれませんね。
WEB記事は「驚嘆」と「共感」で広がる
−−WEBの記事で散々言われるのがタイトルの重要性ですよね。滝さんはタイトルをどうつけているんですか。
誤解されないよう言いたいのですが、やはり基本は「中身あってのタイトル」だということです。
編集者として、人が興味を持つようなタイトルづけのコツは知っていますが、中身がない記事でタイトルだけおもしろく見せても、いわゆる「釣りタイトル」になるだけ。
面白い事実や、書き手の独特の視点があってはじめて、それを生かしたおもしろいタイトルがつけられる。
それくらい、企画の中身とタイトルは一体なんです。一方で、企画の段階で仮タイトルをつけることで、「中身」をより精査することにつながると思っています。
こういうタイトルをつけたいのだから、こんな質問をしようとインタビューの質問項目も決まりますし、記事に盛り込むべき内容も定まっていきます。
僕は企業の広報の方から取材を前提とした提案を受けることも多いですが、その時も仮タイトルが決まっていると非常にジャッジがしやすいと感じます。
広報の方は、うちはこういう会社で、社長もおもしろくて、名物社員もいて、こんなプロダクトがあってと、記事になりそうな情報を全部伝えようとするものです。
しかし、......それこそWEB記事の「サイズ」を考えると情報過多です。できるだけ内容は絞り込んで仮タイトルをつけていただけると、「記事になりうるかどうか」の判断が早くできます。
もっとも、そこまで整理してお話しいただくことはまれですから、僕は仮タイトルをイメージをしながら先方の提案を聞いています。
−−滝さんがそもそも記事を作る際に重視しているポイントとはどんなことですか。
現代ビジネスの前編集長から、「読者にとって、驚嘆や共感が生まれるような記事づくりを心がけてほしい」とよく言われました。
WEBの記事を読む際、サイトに直接見にくることよりも誰かがシェアしているものを目にすることのほうが圧倒的に多くはないですか?
多くの読者に届けたいと思うなら、思わずシェアしたくなるような記事にしなければいけないと考えます。
自分自身が記事をシェアする時を振り返っても、「これは知らなかった!他の 人にも知って ほしい」という驚嘆や、「わかる、わかる。本当によく言ってくれた!」という共感の2つの感情から行動していることが多いと思います。
だから、企画を考える時には必ず驚嘆か共感を含むように心がけています。
−−驚嘆や共感がある企画はどのように生まれるのでしょうか。
そもそもの話ですが、編集者にとって、企画は作るものではなく、発見するものだと思うんです。
自分の頭の中でこねくり回していても、なかなかいい企画は生まれてこない。むしろ、記事にすべきことは、自分を取り囲む「世の中」に転がっているものだと思うんです。
だから、大事なのはそれをどう発見するかなんです。言い換えれば、「驚嘆」や「共感」を生む企画に出合えるよう、発見体質になることが重要です。
「体質」とあえて言ったのは、日々、呼吸をするかのように企画を意識できなければ持続しにくいからです。
人に会うときも、新しいスポットに出かけるときも、スマホでSNSを見るときも、常に驚嘆や共感のポイントはないかとアンテナを張る。
そこまでいけば、企画の種を見つけやすくなるはずです。
「数字」との付き合い方を決める

−−WEBの特性として、PVなどの「数字」が如実に現れるという点もあるかと思います。数字による仮説検証はしていますか。
そこまで大げさなことはしていませんが、数字を参考にはしています。数字がはっきり見えるのは、紙とWEBの大きな違いだと考えています。
雑誌でも販売部数などの把握はできるでしょうが、アンケートを実施しなければどの記事がどれだけ読まれたかはわかりませんし、その数字もどこまで読者全体を映し出しているか懸念が残ります。
一方、WEBの場合は、担当した記事がどれだけ読まれているか、同じ記事でも何ページ目が一番読まれているかなどの数字が明確に出ます。
数字が明確に出ることには、いい面と悪い面の両方があると思っています。数字に現れるから改善しやすいというのはいい面ですよね。
一方で、その数字にとらわれ過ぎるとしたら、よくないでしょう。
話を単純化しますが、例えばPVが多い記事を意識しすぎると、結局、それに似たような記事ばかりがサイト上に並ぶことになるでしょう。
一時はそれでもよいのかもしれませんが、人の心は移ろいやすいもの。潮目が変われば、一気に読まれなくなります。
重要なのは、「数字とどれくらい付き合うのかを決めて、数字を見ること」でしょう。
−−「どれだけ見られたか」という数字だけで記事の価値が推し測られがちなのが、WEBのジレンマですよね。うまく数字と付き合うにはどうすればよいのでしょうか。
結局はそこも「目的ファースト」で、見るべき数字は変わってくるのではないでしょうか。
現代ビジネスはマスの読者にニュースやオピニオンを届けるサイトですから、PVという指標も重要だと考えます。
でも、例えば一般企業が運営していて、読者の資料請求につなげることが目的のサイトであれば、閲覧数は少なくても資料の請求率が高ければ成功としてよいはず。
目的に合った、数字との付き合い方が重要です。
−−数字による検証はどのように行っていますか。
担当した記事は、すべてに「これくらい読者に読まれるんじゃないか」という仮説を立てます。
そして、その仮説から大きく外れたものを中心に検証します。ほとんどの場合、本来もっと読まれるポテンシャルがあるはずの記事なのになぜ読まれなかったのか、その原因を考えて次に生かします。
仮説検証することで、ちょっとしたことですが、タイトル1つとっても言葉の選び方が読者を狭めたのではないか、目を引く固有名詞を先頭においたほうがよかったんじゃないかなど、改善すべきポイントが見つかっていきます。
同じようなテーマの記事でも、タイトル1つで10倍くらいPVの差がつくこともある世界ですから、こうした工夫はバカにできないのです。
−−企業メディアに関わる人が大事にすべき編集視点とはどんなことでしょうか。
一般企業でオウンドメディアを運営するときに、外部の編集者や制作会社の力を借りることがあると思います。
個々のコンテンツの内容やデザインは、外部にある程度任せてもいいかもしれません。ただ、メディアの「目的」だけは運営企業の人が責任を持って決めるべきだと思うんです。
それは、外部の編集者が「編集」できるものではないと感じているからです。
WEBサイトを作ることも、メルマガを配信することも、SNSを運用することであっても、企業の「目的」を形にするための手段でしかありません。
「編集」なんて違う世界の技術だと思うのではなく、まずは当事者意識を持って、自社が解決したい問題を考えてみる。
細かいテクニックは後回しで大丈夫です。まずは、目的から手段を考えることに集中し、編集のスタート地点に立ってみてはいかがでしょうか。
【Profile】滝啓輔(たき けいすけ)1978年、東京生まれ。國學院大學文学部 日本文学科卒業。大学卒業後、編集プロダクションから書籍編集のキャリアをスタートし、日本実業出版社、サンクチュアリ出版などで計100冊以上を編集。担当書は『てっぺん!の朝礼』『「続ける」習慣』『自己啓発の名著から学ぶ 世界一カンタンな人生の変え方』など。また、担当著者が立ち上げたベンチャー企業では、企業へのコンサルティング資料の編集にも携わった。現在、講談社「現代ビジネス」および姉妹サイト「マネー現代」編集部員として、ウェブメデイアの編集を続けるかたわら、個人事業主としても活動中。編集者歴は19年目になる。Twitter:@takikeisuke
[文・編集] コルクラボ・エディターズギルド

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佐藤 智
横浜国立大学大学院教育学研究科修了。中学校・高校の教員免許を取得。中央経済社、ベネッセコーポレーションの教育情報誌『VIEW21』の編集を経て、ライターとして独立。株式会社レゾンクリエイトを設立。著書に、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』(共著、翔泳社)がある。