• インタビュー

    メディアはマインクラフト的な
    参加型になっていく!
    地方メディアからの挑戦

    2019.10.24

『沖縄タイムス』で新聞記者を経験し、2014年からデジタル部門でWEBメディアの記者と運営を担う與那覇(よなは)里子さん。

新聞とWEBメディアの違いや地方メディアの可能性、そして、読者に読みたいと思わせる「編集的視点」に立った工夫とは。

一旦記者を休職し、大学院でデジタルメディアの演出方法を学び職場復帰した與那覇さんには、今何が見えるのか。

近い未来のWEB記事のあり方も含めて、お話を聞いた。

WEBは感情のメディア

――與那覇さんは新聞記者からWEBメディアの担当者になったんですよね。ギャップは大きかったですか?

新聞記者をしていて、2014年からデジタル部門「沖縄タイムスプラス」の担当となりました。WEBメディアは新聞とは書き方がまったく違い、戸惑いましたね。

新聞は最初の一段落に「どこで、誰が関わって、何が起こったか」などすべての要素を入れなければいけません。

さらに、形容詞をなるべく排除するし、紙面も限られているから細かなディテールを書き込むこともあまりない。

でも、WEBの記事は端的に事実を伝えるよりも描写を入れてストーリー性を持たせないと読まれない。

だから、新聞記者の脳のままWEBの記事を書くと、なんだか温度感がないそっけない記事になってしまうことが多いと感じていました。

――新聞に何を求めるかといえば、「ニュース」であり「事実」ですもんね。メディアの特性により、書きっぷりが大きく違うと感じたんですね。

はい、WEBは感情のメディアなんです。

「おお!」とか「え?」とか感情が動かないと、次にスクロールしてもらえないし、拡散もされません。

だから、WEB記事は一文一文が読者との対話で、読まれるための演出が必ず必要なメディアでもあります。

同じ「記者」というカテゴリではありますが、新聞とWEBではまったく別の仕事をしているんだと思って臨んできました。

――新聞社では、新聞に載った情報を自社のWEBメディアに転載することも多いですよね。

そうですね。ニュースのように事実だけ伝える記事もあってもいいとは思います。しかし、工夫は必要です。

「沖縄タイムスプラス」にアクセスする割合は、県民2割・県外の人8割くらいです。県民がほぼ10割の新聞と同じように書いては、読んでもらえないでしょう。

また、沖縄は独特の風習や言葉がある土地なので、県外の人にはわからないことも多いと思います。

少しでも躓く部分があれば読者の感情の動きは止まり、読むのをやめてしまいます。

だから私は「六本木からアクセスしても意味がわかる記事にする」と指標を立てて、コンテンツを作っています。

なぜ、六本木かというと“多様性の極み”のような街のイメージがあったからです(笑)

例えば、「グソーの正月」とは、なんのことだかわかりますか?

沖縄の人はほぼみんな理解していますが、県外の人は知らないですよね。

「グソーの正月」は宮古島と八重山地方の文化で、「あの世の正月」という意味なんです(沖縄本島では「シーミー」と呼ばれる)。

この日は、沖縄独特の大きなお墓の前に親族が介し、料理を詰めた重箱を備えてその場で食べ、先祖供養をします。

その季節行事開催を伝える新聞記事の見出しには「グソーの正月」と記載していましたが、WEBに転載する際には読者全員にわかるように、「あの世の正月」とタイトルを付け直しました。

エンジニアとの共通言語を持つ

――デジタル部門に異動し、與那覇さんは大学院に入ろうと決意するんですよね。どんな思いがあったんですか。

最初は、ITの人たちと同じ言語を話せるようになりたいと思ったんです。

私がデジタルの世界に来て一番困ったのは、独特の用語が理解できず仕様の打ち合わせなどにも苦労する状態だったこと。だから、それを翻訳できる人になりたいと思ったんです。

エンジニアやデザイナーと同じ目線に立ってお願いできる記者になりたい。その思いが強かったですね。

それで、会社を休職し、東京に住んで首都大学東京の大学院でデジタルメディアを学ぶことにしました。

まさに当サイトの意義とも重なると思うんですが、現在はWEBサイトを総合的に編集できるプロデューサーが不足しているんですよね。

エンジニアやデザイナーも書く世界のプロではないから、記者が言っているイメージを掴みきれないことが多い。

また、編集者がシステムのことをあまりよくわかっていないばっかりに、「少しここ直しておいて」と指示を出し、大きくプログラムが組み直しになるなんてことも耳にします。

編集者(コンテンツ制作者)とエンジニアが、お互いにうまくコミュニケーションが取れずに、時間とストレスばかりが募っていくような事態が様々なメディアで起こっているのではないかと思うんです。

コンテンツのことも、ITのことも、両方わかっている編集者がいればより良いものが作れ、そもそもの作業量も減ると考えました。

――紙とWEBでの違いを理解した上で、ディレクションできる存在が必要なんですね。

そうなんです。紙メディアの人は、ネットが万能だと思っている傾向があると感じます。

でも、ゼロからサイトを作るなら別ですが、多くの場合、ページの型が決まっています。

紙ならば、2ページぶち抜きで写真を掲載するといったこともできますが、WEBではできません。

もしも、これをWEBでやろうとしたら、プログラム自体を変えないといけない。ある意味で、デジタルの方が制限が多いのではないかと思うんです。

だからWEBの編集者は、与えられた型の中で”いかに見せるか”という演出を試行錯誤していかなかればいけないんです。

――これから立ち上がるメディアにも編集の力が必要になるでしょうし、突貫で作ってしまったメディアの立て直しにも編集者の需要が増えていきそうですよね。

そうそう。編集の力を持っていれば、引く手数多だと思いますよ。

ただ、これまでいわゆる「編集者」が担ってきた活字の部分だけが仕事ではなくなっていくと思います。

私も記者なのでその傾向はありますが、活字を書く人たちはどうしてもテキストだけで伝えようとしてしまいます。 

しかし、WEBメディアの場合は、テキストの力も間違いないのだけれど、どうやったらその活字が読まれるか、写真や動画、イラストなども含めて見せていく工夫をしていかないといけないと思うんです。

一言で言えば、“演出”です。

演出技術は、知っているか知らないかだけの話です。

様々な工夫の仕方をどう学ぶか、どう探していくかが、これからのWEBの編集者には問われてくるのでしょうね。

ビジュアルをフックにする

――演出のひとつのあり方だと思うのですが、「デジタルアーカイブの〜戦世からぬ伝言〜」デモムービーを見て、言葉を失いました。

文字で読むことと、ビジュアルで見ることの人に与える圧倒的な差を感じたんです。

ありがとうございます。終戦70年に際して、県外の人たちにどうやって沖縄戦を伝えようかと思ったときに、テキストだけだと厳しいだろうと感じて、GIS沖縄研究室、首都大学東京の渡邉英徳研究室(当時)と連携して制作しました。

沖縄戦経験者の方へのヒアリングから地上戦をどう逃げ抜いたのか、GISという技術を使ってマッピングしたんです。

右下の時間の経過とともに、戦争体験者の方の顔写真が逃げた経路に沿って動きます。

また、亡くなった男性を白い点で、女性や子どもを赤い点で表現しました。

最期の声は、どこで亡くなったかというデータなんですよね。それを、見える形にしたいと思ったんです。

沖縄の地上戦で南部に逃げた人が多かったという話は、ご存知の方も少なくないでしょう。

でも、こうやってビジュアルで見ることで、果てしない距離を逃げたという事実や無数の亡くなった方の存在などがより伝わりやすいと思ったんです。

――他にも、AIによる白黒写真をカラー写真に復元している記事は非常におもしろかったです。

沖縄の文化を知るきっかけとして、ビジュアルがフックになるのだということを感じました。

沖縄は、戦争と現代の観光業のイメージが先行して持たれているように思います。戦前の沖縄が想像されることはほぼありませんよね。

そこで、戦前の沖縄の白黒写真をAIで色づけして、復元し、記事に掲載するという試みをしています。

ただ、AIは学んだデータからしか色をつけられず、沖縄の色彩はインプットされていない状態です。

そのため、当時を知るお年寄りに取材をして、着物の色味を確認したり何を売っているのかを聞いたりして色修正を行う必要もあるんです。

「沖縄女性の入れ墨「ハジチ」禁止令から今年で120年 法令で「憧れ」が「恥」に変わった歴史」という記事でも、この技術を使うことができました。

白黒写真をカラーにすることでおばあさんの手にハジチという沖縄の入れ墨がくっきり見えてきたのです。

ハジチは沖縄でも40代くらいの人がギリギリ知っている文化です。1899年に日本政府が入れ墨を禁止したことにより、排除の対象となり、失われていきました。

企画展に向けて制作されたハジチのレプリカ

だから、県外の人はもちろん、若い沖縄県民の中にも知らない人は多いんです。

そのハジチをカラーで蘇らせることで、結果的にテキストを読んでもらうことにもつながったのではないかと思っています。

マーケティングの視点と書きたいことを掛け合わせる

――WEB記事でこうした演出をするためには、どう情報収集をすればいいのでしょうか。

当たり前のことかもしれませんが、色々な記事を見ますね。「こんなものをやってみたいな」と構想していると、Twitterでそのヒントが流れてきたりもする。

先ほどのマッピングもAIによるカラー化も、専門家の方とつながって、ビジュアライズしていくことができるようになりました。

私の場合は、大学院に入ったことももちろん大きかったです。ただ、専門学校のほうが短期間で技術を習得できるとは思います。

――書籍から情報収集をしたりIT技術を学んだりはしますか。

私は、マーケティングの本を読んでる時間が一番長いと思います。

マーケティングの本を読んでいると、「書きたい」というテーマへの思いの強さを、独りよがりにならずに形にできる気がするんです。

客観的に、一歩引いて書きたい題材を見つめられるんですよね。

これも、新聞とWEBの違いになるんですが、新聞は読んでもらいたい内容を書くんです。

でもWebは逆で、需要を見込んだ上で、読んでもらいたいものを料理していく。WEBでは、半径5mの話しか読まれないといわれています。

だからまず先に、読んでもらえる層がどのぐらいいるのかを考える必要があるんです。

――なるほど。切り口を読者層の関心に合わせて、そこに伝えたいことを乗せているんですね。

そうです。例えば、この前タピオカが昔から沖縄にあったことを伝える記事を出したんです。ここでは、今年流行ったタピオカという切り口で沖縄の産業史を伝えました。

他にも、ピコ太郎ブームのタイミングで「なぜ沖縄ではパンチパーマが生き残っているのか」や、成人式シーズンに「なぜ沖縄の成人式は荒れるのか」などの記事を書いています。

地方の新聞記者のキャリアは、例えば沖縄ならば基地問題などの専門分野に特化していくことが多いんです。

でも、デジタルでは読者は全国にいます。

全国で戦うためには、マーケティングの発想を持ちトレンドへのアンテナを立てて、様々なテクノロジーにも触れて、記事を作っていかなければいけないと思っています。

集合知としてアップデートされるWEB記事

――今後、WEBメディアのあり方はどのように変わっていくと思いますか。

より参加型になっていくような気がしています。今は、SNSで記事に対してコメントが入るなどの点から、WEBは参加型や双方向性のメディアといわれていますよね。

しかしこれからは、記事自体を記者と読者が集合知として作っていく時代になると思うんです。

まだまだ私も模索段階なんですが、一例を紹介します。

先ほどお伝えした白黒写真をAIの技術でカラー化した時、予想外のことが次々起きたので、それを記事にしました。

AIも全ての人工物を学びきれないですし、近くに本当の色味がわかる人もいない。これは、そんなケースでした。

以下の一枚の白黒写真をカラー化して、Twitterにアップしたんです。薬局に立っているカエルのマスコットと子どもたちの微笑ましいショットです。

しかし、ひとつ疑問がありました。AIがカラー化したカエルのマスコットがオレンジ色だったんです。「カエルは普通ミドリなのでは」と思いながらも、誰も正解がわかりません。

しかもこの場合は、マスコットの名前も写真の持ち主の記憶に従って「ケロヨン」とアップしました。

そうしたら、「自分が本物のケロヨン。それはコーワのカエだね」とTwitterでコメントがきたんです。

さらに、興和株式会社から当時のカエルのマスコットのカラー写真が送られてきました。

1回リリースしたのものに、情報がどんどん上乗せされていき、結果的に当時のリアルな姿を蘇らせることができたんです。

これはTwitterでの出来事でしたが、こうした集合知としての記事作りが、今後盛んになっていくのではないかと思うんです。

イメージは、「Minecraft(マインクラフト)」ですね。

あれは、参加者みんなで街を作っていくゲームですよね。その街づくりのイメージで記事ができていくと楽しいと思うんです。

WEBの編集者は今後、ファシリテーターや課題提起者などの意味合いを持っていくのかもしれません。

――おもしろいですね。完成された正しい情報を発信し続ける記事ももちろん必要だけれど、読者間で作り上げていく記事もあっていい。集合知で書いた方がより情報量は多くなっていきそうです。

そうですね。もちろん、その場合でも提供された情報が正しいか、裏取りは必要です。

私たちは仕事だから慣れてしまっているけれど、一本の記事を読むことは結構骨が折れることじゃないですか。

だから、時間をとって最後まで読んでよかったなと思えるものを作りたいですよね。

そのために、色々な工夫をして楽しんでもらえる記事をこれからも作っていきたいと思っています。

(プロフィール)

與那覇里子(よなは さとこ)1982年、沖縄生まれ。千葉大学卒業。大学卒業後、2007年沖縄タイムスに入社。社会部で少女売買春や教育などを担当。2014年からデジタル部。2014年、GIS沖縄研究室と共同制作した「具志頭村〜空白の沖縄戦」がGeoアクティビティフェスタで奨励賞、ジャーナリズムイノベーションアワードでデジタルジャーナリズム特別賞。2015年、同研究室、首都大学東京渡邉英徳研究室と共同制作した「沖縄戦デジタルアーカイブ」が文化庁メディア芸術祭入選など。 大学在学中から、若者文化を研究し、著書に2008年「若者文化をどうみるか」(アドバンテージサーバー)編著など。Twitter:@ sssss_sssss_10

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佐藤 智

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。中学校・高校の教員免許を取得。中央経済社、ベネッセコーポレーションの教育情報誌『VIEW21』の編集を経て、ライターとして独立。株式会社レゾンクリエイトを設立。著書に、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』(共著、翔泳社)がある。

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