• インタビュー

    「編集とはロジック」
    ダイヤモンド社ヒット編集者の
    編集メソッド

    2019.11.27

『世界のエリートがやっている 最高の休息法』、『直感と理論をつなぐ思考法』などダイヤモンド社で次々とヒット作を生み出す藤田悠さん。

「自分はひらめき型編集者ではない」と語る藤田さんからは、あらゆる人が知っておきたいロジックに基づいた編集メソッドを聞くことができた。

さらに、今挑戦をしている数百人規模のオンライン読書会の取り組みについても、公の場ではじめて語っていただいた。

言い換えからヒットが生まれる

―編集者としていくつかの出版社を経験してきた藤田さんですが、会社によって編集方針の違いはありましたか?

それぞれ出版社ごとに、“色”があると思います。

僕は、京都の世界思想社教学社という赤本を出している出版社がキャリアのスタート。そこから中経出版に移り、年間15点から20点を時間に追われながら作っていました。

その後、2014年12月にダイヤモンド社へ入社します。ここで驚いたのは、“ダイヤモンド社っぽい編集の仕方”というものが存在しなかったことです。入社以来、上司から「こうしなさい」という指示を受けたことは一度もありません。

振り返ると、それまでは「正解」がある中で答え合わせをするように本を作っていました。しかし、それでは通用しないと痛感します。

独自路線を突き進む編集者たちに揉まれる中で、「自分のスタイルとは何なのか?」を突きつけられているように感じました。

今は年間5点ほどを作っているだけなので、もっと楽になってもよさそうなものですが、体感としては前職よりもしんどいです。

その気になれば、1冊1冊無限に時間と労力をかけられてしまうので、常に編集者としての自分に向き合わざるを得ないんですね。

―模索した結果、藤田さんの編集スタイルはどこに行き着いたのでしょう。

「ロジックによる本づくり」というスタイルが、今の自分には一番しっくりきています。企画のコンセプトづくりの際には “言い換え”の手法をよく採りますが、これにもある種の「ロジック」が必要になります。

ロジックという単語は、古典ギリシャ語の「ロゴス」に由来しています。これは「言葉」という意味。

企画テーマの「言葉」がどういうふうに成り立っているかを考えて、読者につながるような「言い換え」を見いだせたときにはじめて、企画と呼べるものになると考えています。

例えば、僕が担当した『世界のエリートがやっている 最高の休息法』(久賀谷 亮)、これはマインドフルネスについての書籍です。ストレートにタイトルを付けるとすると、『マインドフルネス入門』となるでしょうか。

悪くはないのですが、それでは“マインドフルネスに興味がある人”にしか届かない可能性が高い。では何が必要かというと、マインドフルネスに興味がない人やその言葉を知らない人でも手に取れるように、言葉の要素を分解して「読者との接続ポイント」を探っていくことです。

―なるほど。この「言い換え」による本作りが、藤田さんの軸になっているんですね。

そうです。担当した多くの本をこのパターンで作っています。

『直感と理論をつなぐ思考法』(佐宗邦威)の本来のテーマは、「ビジョン・ドリブン」です。日本語にすると「妄想駆動」なのですが、それだとなかなか伝わりづらい。

そこで著者と、「『ビジョン・ドリブンに考える』とは、直感を直感で終わらせないということですよね。

つまり、個人の直感や妄想を人にきちんと伝える形に落とし込むということ。…それは『直感と論理をつなぐ』ということですかね?」という具合に話し合って、噛み砕いていったんです。

他にも、「ビジョナリー・リーダーシップ」を「何もしないリーダーシップ」(『最高のリーダーは何もしない』藤沢久美)と言い換えたり、「ロジカルシンキング」を「東大卒に勝つ思考」(『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』津田久資)と言い換えたりしています。

近年爆発的に売れた本も、この法則に則っていることが多い。ダイヤモンド社の書籍を例にとるなら、「アドラー心理学入門」だとアドラーを知っている人しか買わないけれど、『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健)だと大ヒットする。

「GRIT」と言われてもピンとこないけれど、『やり抜く力』(アンジェラ・ダックワース)と言い換えることで、読者の手が伸びる。

テーマを分解→再構築しなければ、「このテーマは有用だ」とわかっている人にしか読まれないんです。

これは、紙の本でもWEB記事でも一緒だと思います。要素を分解して、読者の必要性にフィットする形に組み立て直すことで多くの方に届くのです。

自分の課題を解決する本づくり

―読者の視点・視座を把握しなければ、「マインドフルネス」→「最高の休息法」といった言い換えは成功しない思うのですが、藤田さんは読者の思考をどう確認しているのでしょうか。

コンテンツを作る際には、「読者視点に立ちなさい」と散々言われますが、僕は究極的なところ人の心はわからないと思っています。

ではどうすればいいかといえば、「自分だったら」という視点をとことん大事にすることです。

編集者って、あらゆるものに興味があって膨大なメディアに目を通していたり、幅広いジャンルに精通していたりする人が多いじゃないですか。でも、僕はそういうタイプではないんです。

もともと研究者になろうと大学院のドクターまで進学して哲学の研究をしていたので、一つのことをとことん深めて「物事がどういうふうに成り立っているか」を突き詰めていくことは好きだし、向いているかもしれません。しかし、雑学王的に幅広い知識をストックしたいという欲求はあまりないんです。

「そんな『知的ズボラ』である自分が興味を持てるにはどうしたらいいか?」という観点を大事にして企画を練っています。

多くの読者は、巷の編集者ほどは知的好奇心が強くないでしょうし、日々貪欲にネタを探し回っているわけでもありません。だから、自分自身に焦点を当てることで、読者との目線が合ってくると考えています。

―書籍の内容を練る際にも、ご自身の視点を大事にしていますか。

そうですね。『最高の休息法』は、疲れている人が読むことを想定して作っているので、冒頭で7つの「脳の休息法」をサラッと紹介した後に、本論に入っていく構成にしました。

僕も疲れていたら、手っ取り早くポイント知りたいなと思ったので、エッセンスだけを前に持ってきたんです。『直感と理論をつなぐ思考法』も、自分のための本です。

マーケットに合わせた本作りだけではなくて、自分の「いい!」と思ったものを本にしてみたいという思いを抱えていました。

著者の佐宗さんは、ロジックとか戦略ありきではなく、まずは根拠はなくていいから「これをやりたい!」という妄想を現実にすり合わせていく思考プロセスを大切にしている方。

僕はつい「マーケット」とか「読者のニーズ」から考えてしまいがちですが、圧倒的な結果を出している編集者はやはり何らかの「直感」を先行させて、そこから爆発的なパワーを得ています。

僕にもそういうスタイルに対する憧れがありましたし、そんな方法論があるならぜひ本にしたいと思ったんです。

「誰が言うか」が一層重要となる

―コンテンツの編集者として、最近の読者の傾向について感じることはありますか?

「誰が語るか」が一層大事な時代になってきていると感じます。ちょっとした意思決定をするときにも、「誰かの後押し」を求めている社会なのだと思います。SNSでの口コミ的なマーケティングが流行しているのも、同じ理由ですね。

だから、「◯◯氏推薦!」などの帯が増えている。ひと昔前は、推薦帯はあんまり効かない印象でしたが、今の読者には非常に効果的なのです。

この傾向は、WEB記事でも本でも同じでしょう。情報があふれているために、あらゆるコンテンツが「誰が言うか」「誰が支持しているか」によって左右される時代に突入しているのだと思います。それが「いいこと」なのかどうかは、また別の話になるでしょうけれど……。

書籍には書籍にしかできないことがある

―書籍とWEB、それぞれのメディアの違いとはどんな点でしょうか。

書籍とWEBでは目的が違うんだと思います。僕は、本を通して何かしらの「変容」を読者に体験してほしいし、もっと言えば、何か具体的な「行動」につなげてもらえたらと願っています。

そのためには、書籍のそれぞれのパートが独自の役割を果たして、一つのシステムになっていることが必要だと思うんです。

だから、僕は一冊がゴシック建築のように構造化されている書籍が好きですし、そうなるように心がけて編集をしています。

1見開きごとにテーマが変わっていくような本も最近は多いんですが、僕にとっての理想は章ごとにそれぞれのパーツを掘り下げて、全体を通して見たときにそれらのパーツが一つに組み合わさっている書籍です。

これはあくまで好き嫌いの問題なのかもしれませんが、そのような「塊」で理解しない限り、人間はすぐに忘れてしまいますからね。頭から抜けてしまうようでは、「変容」も「行動」も望めません。

一方、WEBは、同じメディアの中で記事同士をつなげ合いながら読むことは、まずないですよね。

ゴールは各記事によって違いますが、インパクトを与えることだったり、点でどれだけ掘り下げられるかということだったりすると考えています。

―電子書籍なども出てきていますが、「紙」であることは本の強みとなるのでしょうか。

僕も紙で読む派なんですが、幼少期から電子媒体で読んできた世代が主流になれば「本といえば紙」という価値観は簡単に覆るのではないかと思っています。

紙の匂いが好きとか、装丁のこだわりが好きなどの個人的な趣味はあるものの、それがメディアとしての強みだとは思っていません。

そうした仕様は結局本質ではないですからね。本は、「書いてあること」こそが本質でしょう? 

紙の本が生まれたときだって、「やっぱり石板でしょ。紙なんて燃えちゃうよ。この石板の重さがあるから頭に入るんだよ」とか「いや、パピルスって最高だよ。この質感がたまらないんだよ」とか言っていた人が一定数いたと思うんです。

あくまで僕らの時代がたまたま紙だっただけ。内容勝負だということはブレないと思います。

本を軸に繋がり合うオンライン読書会

―新たな挑戦を教えてください。

自分が担当した本の届け方を考えるのも編集者の仕事です。僕がその方策のひとつとして始めたのが、「著者が参加するオンライン読書会」です。

先日、『組織開発の探究』(中原淳)のオンライン読書会を開催し、400人程が全国からZOOMで接続し、一緒に本を読み深めました。

これはおそらくオンライン読書会としては、日本記録、ひょっとすると、世界記録と言える規模ではないかと思います。

―どのような反響を得られたのでしょうか。また、その反響の理由を教えてください。

結果的に、ほとんどの人が「また参加したい」と感想を書いてくださり、大好評で終えました。

成功のポイントは、2つあったと思います。

1つめは、単に書籍の内容を知る会というだけでなく、5人くらいのグループに分かれて参加者同士が「御社の状況はどうですか?」「うちの組織開発は◯◯で悩んでいて」という意見交換ができたこと。

2つめは、著者である中原淳先生が参加したこと。読書会自体は、オンラインも含めていろいろな場所で自発的に開かれているのですが、出版社が主催することで著者をお招きできる。

これは参加者にとっては大きなバリューでしょう。今回は少人数グループで話しているルームに中原先生が乱入し、参加者たちが大喜びする、なんてシーンもありました。

――藤田さんはオンライン読書会にどう関わったのですか。

僕は全体のプラニングや集客をしたほか、当日にはファシリテーションを担当しました。

プレゼンターの発表を促して、その内容を要約する。そして、「中原先生どうですか?」とコメントをお願いし、「これについて意見のある人はお願いします」と参加者から感想や質問をもらいました。

―編集者にしかできない、“場を編む”力はあると感じましたか?

これまでそんなに「場を仕切る」という経験はしたことがなかったのですが、アンケートでは「ファシリテーションが良かった」と多くの方に書いてもらえたんです。

ある人からは「あのファシリテーションは、書籍編集者だからこそできたことだね」と言っていただき、考えさせられました。

「文字のコンテンツを編む」のが編集者の役割だと思われていますが、「対話の場を編む」ということも、僕たちにできる仕事なのかもしれないなと可能性を感じたんです。

僕がしたことは、議論の交通整理です。中原先生やプレゼンターが言っていることをその場でまとめること。そして、対立する論が出た場合に、AさんとBさんがどこで対立をしているのかを整理して見えやすくすること。

噛み砕いて、「AさんとBさんはαという点では合意しているけれど、βという点で対立していますね」といった編集者の視点でワンクッションを入れると、「確かにαはわかるな。

βについてはより生産的な議論が必要だな」と参加者の理解が促され、対話の満足度が上がると感じました。

編集者は日常的にテキストを相手にその交通整理をしているんですが、ダイナミックに動く対話コンテンツでも同じことができるのかもしれない。そんなことを思いました。

―意外だったのは、“みんなで本を読みたい”というニーズが多かったことです。

そうですね。実は僕は一人で読書して満足するタイプなのですが、今回の経験から、みんな本について語りたいんだと実感しました。

同じテーマについて語り合える人が周囲にいなかったり、読書をしながら孤独を感じている人が、とくに地方などには多くいらっしゃるのでしょうね。

本を購入している時点で、参加者の課題意識は揃っている。だから、いろいろなステップをすっ飛ばして、参加者同士が意気投合しやすいんですよね。

「同じような課題を抱えた人がこんなにいるんだ!」と知って喜び、愚痴で終わらず生産的な話にまで広がっていました。

―本を売って終わりではない出版社の新たなビジネスモデルになりそうですね。

はい。これまで出版社として着手できなかった部分にアプローチできるでしょう。1冊の本を切り口に、読者同士を繋げたり、出版社と読者とが繋がったりすることができる。

繰り返しになりますが、僕の本づくりの目的は行動に繋げてもらうことです。仲間ができれば、アクションも起こしやすくなるはず。オンライン読書会にはそんな可能性もあると思います。

また、「著者が参加するオンライン読書会」には、メディア側にとっても大きな可能性があります。例えば、読書会サービス自体をサブスクリプション・プランに組み込んだり、録画アーカイブ化して販売したり、読書会のなかから新たな企画やコンテンツを生み出したりすることができるかもしれない。

これまでは「一冊を丁寧につくり、それを世の中に投げる。以上」で終わっていたのが、これからは「一冊の本を通じて、さまざまなかたちで読者とつながり続けられる」のです。

技術とか環境という点でいうと、「著者が参加するオンライン読書会」は、もはやいつでも誰でもできます。ですから、あとは「やるか、やらないか」の問題。

このスキルを様々な編集者と共有しながら、自分自身が楽しんで、新しい本の作り方・売り方を模索していきたいと思っています。

【profile】

藤田 悠(ふじた・ゆう) 書籍編集者。1981年、岐阜生まれ。京都大学大学院 文学研究科修士課程修了(西洋近世哲学史)。日本学術振興会特別研究員(DC1)採用後、同博士課程を中退。世界思想社教学社でのアルバイトを経て、中経出版(現・KADOKAWA)に入社。学習参考書・語学書などをつくるかたわらで、ビジネス書の本づくりを学ぶ。2014年12月にダイヤモンド社入社。現在、書籍編集局 第二編集部 副編集長。主な担当書籍に『最高の休息法』(シリーズ27万部)、『直感と論理をつなぐ思考法』(8.5万部)、『最高のリーダーは何もしない』(6万部)など。音楽・語学・SF・ホラー・鳥が好き。

株式会社レゾンクリエイト

佐藤 智

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。中学校・高校の教員免許を取得。中央経済社、ベネッセコーポレーションの教育情報誌『VIEW21』の編集を経て、ライターとして独立。株式会社レゾンクリエイトを設立。著書に、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』(共著、翔泳社)がある。

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