• インタビュー

    企業の言語中枢を担う、
    インハウスエディターという
    キャリアの選択肢

    2019.11.28
    加勢犬(かせい・けん)

ホームページやウェブ広告、SNSにオウンドメディア……企業が情報発信を行うのが当たり前になったいま、事業会社に所属して編集業務を担当する「インハウスエディター」に注目が集まっています。

しかしインハウスエディターが何をする仕事で、なぜ必要とされているのか、また企業にとって社内に編集者を抱えるメリットはどこにあるのかといったことはまだまだ知られていません。

そこで今回インタビューしたのは、ウォンテッドリー初のインハウスエディターとして活躍する加勢犬(かせい・けん)さん。

CCCメディアハウスへの全面的企画・編集協力のもと制作した学生向けキャリアムックPen+『1冊まるごと、令和の就活。』を発売したばかりの加勢さんに、仕事の面白さや難しさ、そしてインハウスエディターの未来についてお聞きしました。

インハウスエディターは「法人格の声をつくる」仕事

―ずばり、インハウスエディターとはどんな存在ですか?

加勢:一般的には「インハウスエディター=オウンドメディアの担当者」としてイメージされているかもしれませんが、所属する企業によってその業務にはさまざまな形があると思います。

マーケティングやコーポレートブランディング、さらには採用にいたるまで、インハウスエディターのアウトプットの形は多様化していますから。

とりわけ僕が所属しているウォンテッドリーのDesign & Editorialチームは、事業部を横断する形でありとあらゆるクリエイティブに責任をもつチームなので、担当する業務範囲もそれに合わせて広くなります。

そこであえて僕自身が担っている役割を定義するならば、「法人格の声をつくる」ということになると思っています。

つまり、インハウスデザイナーがビジュアルを駆使することで企業の持っている性格や、プロダクトの世界観を表現しているように、インハウスエディターは企業の言語中枢を担うことによってそれを表現する存在です。

ウォンテッドリーは、美学的にみても思想的にみてもかなり独自性の高い「色」を持っている企業で、それがそっくりそのままプロダクトにも反映されているので、ビジュアルだけではなく言葉の面からも独自の洗練を重ねていきたいですね。

―具体的にはどんな仕事をされているんでしょうか?

加勢:採用からプロダクトまで、紙からUX(ユーザーエクスペリエンス)まで幅広く、という感じですね。

もちろんオウンドメディアの企画・編集も担当業務内ですが、どちらかといえばマイナータスクで、マーケティング用途にe-bookを制作したり、人事と一緒に採用広報コンテンツを作ったり、デザイナーやエンジニアと一緒になってプロダクト上の文言を練ったり......と、さまざまなことに携わっています。

基本的には「コミュニケーション上の課題があるところにアサインされる人」という風にイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。

ここ一年の変化で言えば、今回のムック(『1冊まるごと、令和の就活』)の制作のように、編集者として自分がプロジェクトオーナーになる大きな案件が増えてきたことでしょうか。

『Pen+』編集部とウォンテッドリーが制作した『1冊まるごと、令和の就活』。識者インタビューやキャリアタイプ診断、大手・ベンチャーで働く32名の先輩社員へのキャリアインタビューなど、「20代と仕事」にまつわる全てを総力特集している。

ムックの制作には足掛け4ヶ月以上かかりましたし、取り組むタスクの粒がだんだん大きくなってきています。

同時に、社内の細かな相談に即座に対応できるようなフットワークの軽さも残しておきたいので、そのあたりの両立が今後の課題ですね(笑)

というのも、僕個人としては「言語化が必要なところには全部顔を出したい」ぐらいのモチベーションでやっているんですよ。

もちろん、企業が1日に発しているメッセージは無数にありますからそれを実現するのは到底不可能な話ですし、「言語化する」という重要なタスクにおいて属人化が進むことが好ましいとも思えない。

でも、「こういう言葉遣いがウォンテッドリーっぽいよね」「こういう風にメッセージを世の中に出せたらカッコいいよね」というような意識を、自分がきっかけとなって社内で共有することはできるかもしれない。

そこで社内向けの文章講座を開いたり、広報と一緒にコミュニケーション・タグラインを作ったり、ということもやっています。

―めちゃくちゃ面白そうですね。

加勢:本当に、クラクラするほど面白い仕事だと思います。

僕は、「好奇心」こそ編集者に求められる重要な素質だと思っていますが、インハウスエディターとしてその好奇心の対象となるのは「自社そのもの」です。

そしてありがたいことに、業務を通じて社内の接触面積をかなり広く持てているので、いま自社でどんなことが進んでいるのか、どのあたりに課題があって、その解決のために誰が動いているのか、細かな情報を解像度高くつかむことができます。

そういう意味で、最近ではインハウスエディターという立場を「特等席」だと思うようになりました。

もちろん、タダでその席が与えられている訳ではないので、当事者意識を持ってそれぞれの課題と向き合わなくては、どんな責任を果たすために存在しているかがわからなくなってしまいますが。

幸い、同じチームのデザイナー陣はかなり高い当事者意識を持って事業やユーザーの課題に向き合っている人たちばかりなので、彼らの仕事に対する姿勢を見習ううちに、インハウスエディターとしての働き方をつかめたと思います。

「1社に1編集者」の時代はやってくるか

―今後インハウスエディターは増えていくと思いますか?

加勢:僕自身としては、「1社に1人は編集者がいる」ような未来がきてもいいと思っていますが、どうでしょうね...... 事業を取り巻くトレンド次第かなとは思いますが、そう遠くない未来にインハウスエディターに類する職種の需要が高まる気配も感じています。

たとえばマーケティングの世界では、スペック面での優位性を打ち出して「機能価値」を訴求するだけではモノが売れず、プロダクトデザインに哲学を込めたり、ブランド自体にストーリーを付与したりといった「情緒価値」で差別化することが重要になってきているといわれるようになって久しいですよね。

その認識がこれからもっと広がるにつれて、自社の声をどんな言葉でアウトプットするのか、たとえばWantedly Visitのようなプラットフォームを通じてどんなストーリーを伝えていくのか、ということに企業はもっと向き合うようになるでしょうし、それに並行してインハウスエディターの需要も高まると思います。

何より僕自身が「編集者起点の事業インパクトを証明したい」と思ってこの仕事をしているところがありますね(笑)

 だって、美学や思想を持っている企業が最後に勝つとしたら、こんなに愉快なことはないじゃないですか。

―たしかにそれは愉快ですね(笑) マーケティングだけでなく、採用を成功させるうえでもインハウスエディターの役割は大きくなりそうです。

加勢:おっしゃる通り、採用でも同じように「条件だけでは人が動かないので、『共感』を通じた自社の魅力づけが必要だ」という時代になっています。

とりわけ僕自身が採用関連サービスを提供している会社にいるからこそ、このトレンドは強く感じています。

僕はウォンテッドリーがMarkeZineで連載している「採用活動をマーケティングでハックせよ」という一連の記事に編集として携わっていますが、その連載の中では「これからの採用には、候補者視点に立ったコミュニケーション設計が大切だ」と繰り返し述べているんですね。

つまり、これからの採用の成否というのは予算の多寡やエージェントコントロールの巧拙で決まるのではない。むしろ、自社の姿をどれだけ正しく伝えられるか、そしてその情報を適切なターゲットに届けることができるかどうかが採用の成果を左右するということです。

情報発信の手法を最適化できれば、たとえ採用予算が少なかったとしても欲しい人材とのマッチ率を高めることができます。

逆にいえばそうでもしない限り、限られたパイの奪い合いにおいてジリ貧の戦いを余儀なくされてしまうというのがこの採用難時代の前提だと考えています。

―だからインハウスエディターのような「伝え方のプロ」が、採用担当者や人事部と一緒になって採用活動をすることが、とても大切になってくるわけですね。

加勢:実際、僕が自社の採用広報に携わるようになって1年が経ちますが、採用ターゲットとのマッチ精度や、カジュアル面談から本選考への移行率といった指標において成果が出ていることが分かっています。

インハウスエディターの仕事の成果はなかなか目に見えないことも多いですが、この結果を見ると、一定の貢献はできているのかなと思いますね。

ウォンテッドリーのエンジニア陣に学ぶ、「発信文化」の重要性

―やっぱりWantedly Feed(Wantedly Visitのブログ機能)で公開するコンテンツは、加勢さんが書いたり、編集したりしているものなんですか?

加勢:必ずしもすべての編集に携わっている訳ではありません。

僕の場合はビジネス部門(営業、広告宣伝などの売上を伸ばす部門)の採用広報コンテンツにはメインで関わっていますが、開発部門(エンジニア、デザイナーなどのモノ作りの部門)とコーポレート部門(経営企画、人事、総務など会社を回す部門)に関しては、基本的に本人たちがコンテンツを作っています。

というのも、それらの職種に関してはとくに自分たちで発信するのが一番効果的だからです。

たとえばエンジニア向けの採用広報コンテンツとして一番強いのは、エンジニア自身が書いた技術ブログだったり、技術カンファレンスでのプレゼンだったりします。

やはり、技術トレンドを押さえつつ、自社のプラクティスにエッジをつけて発信することがエンジニアコミュニティからの注目を得る一番の方法である以上、非エンジニアがどれだけ頑張って自社の開発文化を伝えても、それはエンジニアには届きにくいのではないかと思います。他の専門職についても同じことが言えるかもしれません。

―なるほど。でもそうするには、社員が自発的に自らの知見をアウトプットするような文化を作れるかどうかが肝心そうですね。

加勢:そうですね。その点、ウォンテッドリーのエンジニア陣はすごくて、半年に一回開かれる「技術書典」という技術書専門の同人誌販売イベントがあるのですが、それに2016年の初回開催から7回連続「Wantedly Tech Book」という自社のプラクティスを凝縮した技術書を有志で持ち込んで出展してるんです。

つまり、彼らはコンテンツ編集とはまったく関係のない業務を行いながら、この4年で7冊もの本を作ったことになる。時折、自分よりも彼らの方が圧倒的に編集のノウハウを持ってるんじゃないかって戦慄することもあるぐらいです(笑)

技術同人誌「Wantedly Tech Book」と、ウォンテッドリーの思想書とも言える「Wantedly Culture Book」。テック系ベンチャーとして印刷物にここまでのこだわりを見せる企業は稀だが、採用候補者への手渡しなど様々な場面で活躍するという。

でも、現場の発信意欲が高ければインハウスエディターが不要かといわれれば、そうではありません。

どんなコンセプトのもとにどんなコンテンツを作っていくべきか、編集的な視点から事業部と一緒になって戦略を考えていくことはできますから。

アウトプットの質と効果を高めるために、企業の情報発信に編集サイドとして関わる領域はもっと広げられると思っています。

インハウスエディターのキャリアは「曖昧さ」を受け入れることから始まる

―先ほど「インハウスエディターの仕事の成果はなかなか目に見えない」という話が出ましたが、この曖昧さはインハウスエディターの課題ですよね。

加勢:いわゆる「1人ポジション」のすべてに当てはまることだと思いますが、職能ベースに切り分けられた組織の中で評価指標を定めるのが難しいという問題はたしかにあるかもしれませんね。

たとえば広報と編集者が同じチームで仕事をすれば業務上たくさんの接点を持つことになるでしょうが、チーム全体として掲げる目標がある中で両者のKPIにどう整合性を持たせるかでいうと......ちょっとすぐには検討がつかないですね。

やはり、編集者というのはクリエイティブ畑の人間なので、デザイナー等のポジションと同じ指標で評価するほうが矛盾が少なくて済むと思います。何よりも、クリエイターはクリエイターからの承認を受けることが一番嬉しいことですから。

―そもそも、社内で、どんな立ち位置で仕事をすればいいか、というのも曖昧な気がします。

加勢:それは、僕自身がウォンテッドリーに入社したばかりの頃に体験したことだったりもします。

当時は新規事業域に携わる社内スタートアップみたいなチームにいましたが、エンジニアのように実際にプロダクトを作っているわけではないし、セールスのようにそれを売って利益を出しているわけでもない。

チームや事業への貢献度という点でどうしてもエンジニアやビジネスサイドのメンバーと自分自身を比べてしまって、1人静かに自信喪失してしまうようなこともありました。

いま思えば、1人目の編集者として事業会社に加わる人であれば、多かれ少なかれ体験するような通過儀礼だったのかなとも思っていますし、プロダクトのUI/UXを真剣に考えるデザイナーやエンジニアたちの隣で仕事をしながら、彼らの思考回路や使っている言葉を理解しようともがいた経験は、確実に今の自分の糧になっていると思います。

何よりも、自分の得意なことだけしていたいとか、それまでと同じことをしていたいと思って飛び込んだ環境ではなかったので、たとえ落ち込むことがあったとしてもそれ以上にワクワク感の方が上回った1年でもありました。

「テック企業で編集者としての新しい可能性を切り拓いてやる!」というのが入社時からの意気込みですからね。

―最後に、インハウスエディターにはどんな人が向いていると思いますか?

加勢:僕の考えるインハウス向きの編集者は、ある特定の企業ブランドにたまらない愛着を抱いていて、そのブランドとともに成長することをキャリアの最優先事項として掲げられる人ですね。

逆に、その人のプライオリティが「売れっ子ライター・売れっ子編集者になりたい」ということにあるのならば、フリーランスとして自分のスキルを発揮した方が幸せになれると思います。

同じように、「とにかくコンテンツ作りに集中していたい!」という人もまた、それ以外に考えるべきことの多さに戸惑ってしまうかもしれません。

インハウスエディターというキャリアを選択した以上、1つのブランドに全人格的にコミットすることが求められますし、それを楽しめる人でないとしんどいことばかりなのではないでしょうか。

社内向き合いの仕事が多いので、「世の中で何がバズっているか」を追いかける以上に「社内で何が起こっているか」の方にアンテナを張り巡らせていなくてはいけないですから。

そういうモチベーションを得るためにはやっぱり、「この会社に惚れた!」という出会いが一番必要なのかもしれませんね(笑)

【プロフィール】

加勢犬(かせい・けん)1985年、イギリス生まれ。東京大学教養学部卒。東京大学大学院総合文化研究科修了。同大学院後期博士課程で19世紀から20世紀にかけてのイギリス文学・文化史を研究する。2015年9月よりサムライト株式会社に参加。「30歳新卒」としてオウンドメディア事業部に所属し、文芸、英語学習、ライフスタイルなどに関する複数のメディア運営に携わる他、社内第1編集部マネージャーとしてチームの制作管理・クオリティチェックを行う。その後、外資教育系企業にマーケターとしてジョイン。各種広告施策のためのメディアプラン策定から、インフルエンサー起用等を通じたコンテンツマーケティングの企画立案・制作ディレクション・ライティング・編集などを担当。現在は、ウォンテッドリー初の編集者として、自社採用広報コンテンツの企画・編集・執筆、各種コピーライティング・UXライティング、マーケティングの制作ディレクション等、全社横断的に言語コミュニケーションの領域に携わっている Twitter: @Dr_KenDog

頼母木 俊輔

『編集の時間』編集責任者 / 苫米地式認定コーチ補。エンタメ業界などを中心に数百件以上のデジタルプロモーション施策や、SNSの運用を担当し、2014年に独立。「企業の編集」をコンセプトに、オウンドメディアの立ち上げやSNS運用などを担当。ビジネスメディア 「キャリアサプリ」編集長(2014年~)、起業家むけメディア「助っ人」編集長(~2019年4月)。劇場公開映画のSNSやnote運用なども得意としている。

Twitter:https://twitter.com/MOGGYSBOOKS

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