• インタビュー

    ライティングや文章のリライトを
    しない編集もある。
    メディア編集から地域の編集へ

    2020.01.21

編集力は、さまざまな仕事で求められています。『ウートピ』編集長の鈴木円香さんは、紙とWebメディアの編集を経て、「地域の編集」に踏み込みました。

それぞれのステージでの気づきとは。そして、「編集」の中で共通する力とはどんなものだったのでしょうか。

徹底的にリアリティにこだわったメディアを構築

―これまでのキャリアを教えてください。

編集者としての最初のキャリアは、朝日新聞出版です。3年ほどそこでビジネス書を作り、ダイヤモンド社に移りました。

その後、編集者として独立します。子どもが生まれたタイミングだったこともありますが、その時、「自分には書籍編集者としての才能はあまりないな」と感じていたことも会社を辞めた理由です。

周りを見渡すと圧倒的な才能を持った、スター書籍編集者がゴロゴロいる環境で、当時の私は劣等感すら抱けませんでした。劣等感というものは、頑張ったらなれるかなれないかのレベルの人が抱くんですよね。

―書籍編集ではない道を進もうと決意して、ウートピの編集長になったのですね?

というより、たまたまですね。12月にダイヤモンド社を退職し、知人の紹介で1月にウートピの編集長にならないか?というオファーが来て受けました。業務委託で編集長をするという変わったスタイルで、4年近く続けています。

当時、ウートピは立ち上げ3年目くらい。プロデューサーは30代女性。自分自身の課題意識から、「アラサー女性に本当に役立つメディアを作りたい」という思いで立ち上げたものの、実際はそうはなっていないと悩んでいました。

―プロデューサーとはどういうメディアを作りたいと話していたんですか?

リアルなアラサー女性に役立つメディアを作ろうと話し合いました。まずは、ウートピの読者を具体的に描くところからスタートしました。

ターゲットイメージの女性を集めて、定期的にヒアリングしたり、ランチ会をしたりして、実態に即したテーマを抽出しました。

さらに、雑談のような編集会議を毎週繰り返しました。最近気になったこと、嫌だったこと、ムカついたことなどから面白い企画が生まれました。

例えば、ウートピでは「帰省が憂鬱」という企画をお盆とお正月に毎年やるのですが、「なぜ憂鬱なんだっけ?」という話をざっくばらんにしてリアルな理由を掘り下げていくんです。

―30代女性のリアリティにこだわった?

そうですね。Webの編集者の中には、Webの記事を読んでネタを探して、そこからWebの記事を作るというふうに、Webの中をぐるぐる回っている人が少なくありません。

でも、それでは30代女性のリアルを映し出すメディアとしてのブランドは構築できません。そこで、ネタは自分たちのリアルな生活の中から探すようにしました。頭の中だけで作らないように心がけたんです。

ミッションを形にする編集を追究

―ブランドイメージを形にするために何をしましたか?

メディアとしてのミッションを明確化しました。当時のウートピのプロデューサーが、「ものすごく選択肢がたくさんあるこの時代。どうやって決めたらいいんだろう」という自身の葛藤をコピーに込めたんです。

https://wotopi.jp/about 一部抜粋

―「産むことにメリットって、本当にあるんですか?」といったテーマを取り上げることはミッションに紐づいていると思います。ただ、賛否両論ある話題を取り上げることに怖さはありませんでしたか?

恐怖はまったくないです。実は私、Twitterをしないと決めているんです。

そうするとネットの空気を読まなくなります。「空気を読まずに自分たちが正しいと思うことをやる」と決めている。空気を読まない方が、おもしろいものを作れると思いませんか? 

とはいえ、私が編集長になってから1回も変な炎上はしていないです。

―Twitterを見ずに「どれだけバズっているか」などの感触はどこで得ているのですか?

実はバズることにそこまで価値を置いていないんです。Twitterでバズるのは本当の共感ではないと思うんですよね。シェア率やPV数では測れない共感もありますし。

例えば、「産むメリット・デメリット」などのセンシティブなテーマの記事は、深く心に刺されば刺さるほど、シェアもできないしコメントもできなくなる。

これに共感した自分を外に出すとイタいと思われるかもしれないとか、批判されるかもしれないとか。

Webはあらゆる指標を数字で見られる世界です。でも、コメントやシェアの数にはあらわれないけれど、密かに支持されるものもあります。

―数値の検証はどうしていたのですか? PVなどは一切見ない?

いえいえ。毎週PVを確認をする振り返り会はしていました。自分の担当記事がどれくらいPVが取れたかは確認する。でも、そこに過剰に反応することはないです。

企画を練ることもタイトル付けることも編集部全員で行なっているから、個人責任にはなりません。

「地域の編集」という可能性

―鈴木さんは新たな“編集の挑戦”をスタートしているんですよね。

はい。いま、五島列島を編集しています。コメンテーターをしている番組で移住した方が登場したのをきっかけに遊びに行きました。

―五島列島って、潜伏キリシタンの教会で有名な長崎県の西のあたりの島々ですよね?

はい、五島は素晴らしい土地なのに、それに見合うほど注目されている感じがない。編集者はおもしろい素材を見つけると、惚れ込んで、人に知らせたくなる習性を持っているじゃないですか。

その編集者魂が爆発して、「五島のこと広めたくなっちゃった!」とクラウドファンディングで地元の写真家さんと贅を凝らしたフォトガイドブックを作ったんです。

それを機にBusiness Insider Japan 統括編集長の浜田敬子や著作家の山口周さんなどが、「五島に行きたい」とおっしゃってくださって、せっかくだからBusiness Insider Japan 主催で1ヶ月のリモートワーク実証実験という企画にしてみました。

なんと大人と子供あわせて約70人が集まり、関係者を合わせると90人以上が五島に渡りました。これが地元でも好評で、共感してくれる仲間が増えたこともあり、今年7月に『一般社団法人みつめる旅』を作りました。

五島と東京をはじめとした都市部の間で、楽しくて豊かな関係人口を増やしていく事業を立ち上げたんです。

―好きで伝えているうちにプロジェクトになっていったんですね。編集と一言でいっても、さまざまな要素がありますよね。どのような編集力を使っていますか?

編集の中でも、コンセプトメイキングの力を使っていますね。いわゆる、企画力。現在私は、基本的にライティングもしないし、文章のリライトもしない。活字をいじる編集はやっていません。でも、編集の仕事はそれだけではないんですよね。

私は、「編集とはラッピング」だと思っています。

心の底から惚れ込んだものを、最善だと思えるラッピングで世の中に届け、「いいねー!」と言ってもらえると、すごく嬉しくなります。

最高によいと信じられるものに、考えうる限りで最高のラッピングをほどこす。それがめちゃくちゃ楽しいです。

―五島にはどのような“ラッピング”をしていますか?

一般社団法人みつめる旅では、いろいろな事業を展開していますが、その一つに五島市が主催するワーケーションイベントの企画・運営があります。

今年の1〜2月にも「あえて、真冬の五島であいましょう」とのコンセプトのもと、地域課題解決型の「五島ワーケーション・チャレンジ」を開催します。

2018年に列島内の潜伏キリシタン遺産が世界遺産に登録されたこともあり、春夏の五島には観光客が増えているんです。でも、五島列島の真冬は、観光資源が乏しく、閑散期となります。

そこで「閑散期をなんとかしたい!!!」というテーマで、都市部からビジネスパーソン50名を呼んでワーケーションをやり、「冬の五島の魅力」を発掘しよう、と。

そうやって発掘していくと、「奇跡の朝焼け」と言われるほど美しい真冬の朝焼け、それを眺めながらのイカ釣り、地元の奇祭「へトマト」、冴え渡る満天の星空……といろいろな魅力がみつかりました。

地元の人にとっては当たり前のものに付加価値をつけていくのも「編集」の一つですよね。

―ひと昔前であれば、地方創生のゴールは人口を増やして、産業がたくさんできて……といった、見えやすいものだったように思います。これから、「地域の編集」で五島列島をどのようにしたいと考えていますか?

五島列島はそのままでいいんです。私は今の五島列島に惚れ込んでいるので、五島に今より人が増えたらいいなとか、便利になったらいいなとは思っていません。東京のように超便利な場所から来ると、不便さが逆に価値になると気づかされますし。

現在五島市は、20代、30代の間で人気移住先となっていて、年間の移住者が200名を超え、今年は記録を取り始めた昭和30年以来初の社会増を記録しましたが、それでも、今のままのシンプルで穏やかなありかたが続けばいいな、と考えています。

目指しているのは、五島列島と都市部の間で、楽しくて愉快な人間らしい関係人口を増やすことです。

五島列島
撮影:廣瀬健司

―地域の編集をうまくいかせるポイントはありますか。

東京の人だけでプランを決めることはせず、五島の人と話し合いを重ねて、どうしたら地域全体を巻き込めるか作戦を立てています。

都市部からU・Iターンした人は「東京の理屈」が通じやすいので巻き込みやすいのですが、そうではないディープな五島人まで楽しく巻き込んでいきたいですね。

撮影:廣瀬健司

そして一番大事なことは、やり続けることです。最初は打ち解けられなくても、「こいつら本当にやるんだな」と地域の人に信じてもらうこと。都心部から何回か訪れて勢いよくスタートを切っても、そのうち飽きて引き上げちゃうという地方創生プロジェクトは多いんです。

どんなに口でうまいこと言っても、地域では行動でしか評価されません。その点は東京のビジネスよりも何倍もシビアですね。しかし、それこそが五島のおもしろいところだなと思っています。とにかくやり切ることでしか認めてもらえません。

―その「やり切ること」は、編集者としての姿勢と通じますか?

通じますね。一度惚れたものに伴走しきるのは、編集者として大事にしていることです。人の才能に対しも、場所に対してであったとしても、自分が惚れたものには伴走しきる。でも、それは口でいうほど簡単なことではないんです。

地域に関しても同じです。東京から人が来て、新しいプロジェクトを立ち上げては消えていくことを経験すると、地元の人は「また裏切られる」と思ってしまう。編集者にとって伴走しきることは最も大事な素養です。

これからも、自分の惚れ込んだ人やものに対して寄り添い続ける編集者でありたいと思っています。

■プロフィール

鈴木円香 株式会社BIBLIOBAGA代表、一般社団法人みつめる旅理事、ウートピ編集長。京都大学総合人間学部を卒業後、株式会社朝日新聞出版、株式会社ダイヤモンド社にてビジネス分野を中心に書籍編集を手がける。2016年3月、ウートピ編集長に就任。現在、5歳児の母。2017年2月よりABEMANEWSチャンネル「Wの悲喜劇 ∼日本一過激なオンナのニュース∼」にレギュラーコメンテイターとして出演。一般社団法人みつめる旅の理事として、長崎・五島列島と東京の楽しい関係人口を増やすプロジェクトに夢中な日々。

株式会社レゾンクリエイト

佐藤 智

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。中学校・高校の教員免許を取得。中央経済社、ベネッセコーポレーションの教育情報誌『VIEW21』の編集を経て、ライターとして独立。株式会社レゾンクリエイトを設立。著書に、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』(共著、翔泳社)がある。

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