• インタビュー

    地域の学びを編集する!
    赤字ローカル線「平成筑豊鉄道」
    の価値を子供たちと一緒に考える

    2020.03.20

2019年、福岡県京都郡みやこ町で高校生と大人が集う「へいちく価値向上プロジェクト」がスタートした。高校生とサポータの大人が赤字ローカル線である平成筑豊鉄道の価値向上について考え、対話をしている。

この「地域の学びの編集」をプロジェクトとした、その真意を事務局の日賀優一さんに聞いた。

答えが1つではない問いに向き合う機会を作りたい

―なぜ福岡県京都郡で活動をスタートしたのですか。

僕はもともとこのあたりの出身だったんです。高校3年生の時は、「絶対にこの場所には残りたくない」と思って、首都圏の大学に出ました。そこからずっと東京で働いてきたのですが、2011年の東日本大震災で転機が訪れます。

家族の「東京を離れて田舎で暮らしたい」という要望を受けて、地元へ戻ることにしたんです。そこから、7年間程、僕は東京と福岡を行ったり来たりする2拠点生活をしています。

地元に戻り、ひとつ決めたことがあります。それは、僕が教育事業で飯を食わせてきてもらったので、地域へ教育で恩返しをするということです。そこで、「三四郎の学校」という場づくりを始めました。

―「三四郎の学校」とはどんな活動ですか?

学校では扱わないような答えのない問いについて、中学生や高校生が大学生や地域の大人と語り合うワークショップです。2013年からスタートし、2020年3月で27回目を迎えます。

これまで、「未来の田舎を創造する」「失敗とは何か」「(僧侶をゲストにした)人間探究」「恋愛とは何なのか」「(LGBT当事者をゲストに招いて)私らしさとは」「アートと対話で描くCOCOROの自画像」などをテーマに対話型のワークショップをしました。

ちなみに、夏目漱石の『三四郎』の主人公・小川三四郎が福岡県京都郡の出身なので、そこから活動の名前を取っています。

―どうして答えのない問いについて、高校生たちと対話しようと考えたのでしょう?

社会に出れば答えが一つではない問いばかりです。しかし、学校では答えに効率的にたどり着く方法しか学ぶことができません。では、子どもたちはどこで答えのない問いに向き合う練習を積めばいいんだろうと思ったんです。

さらに、同じテーマで考えたり同じものを見たりしたとしても、捉え方が異なります。「そこが課題だと思ったんだ」「そんなところが印象に残ったんだ」と他者との違いを知ることで、世界はとても多様であることを知ることができます。しかも、そこに正解・不正解はありません。

このワークショップでは、その場で答えは出さず、モヤモヤとした思考を持ち帰ります。人生のどこかで、ふと自分なりの答えが見つかることもあるでしょう。土地を耕して種を植えて、どこで花が開くか。その不確実性が「三四郎の学校」の活動のおもしろさです。

―地方で、このような学びの場を設けたいという思いが大きかったですか。

そうですね、今、中学生や高校生は「○年後には今ある職業がなくなる!」「AIに負けない能力がないと生き残れない」と大人たちから危機感を煽られています。しかし、学校で行われている教育が10年前と大きく変わったかと言えば必ずしもそうではありません。

それでも都市部では、企業や大学がリードして新しい学びの場を作っていますし、生徒自身にも留学など学校を飛び出した学びのチャンスが豊富です。

しかし地方ではなかなかそうはいきません。教育における地方のハンディキャップが気になってもいたんです。

なぜローカル線を通じた「地域の学びの編集」なのか?

―なぜ平成筑豊鉄道の価値向上を高校生と話し合おうと思ったのですか。

平成筑豊鉄道は福岡県の行橋駅から直方駅までを走るローカル線です。地域の過疎化が進むに連れて、赤字路線になっているのが実情。利用者の多くがお年寄りや通学の高校生です。

こうした問題は何も平成筑豊鉄道だけのことではなく、多くの地域で起きています。では、私たちはそうした地域の問題にどう向き合っていけばいいのでしょう。

それを考える上で大事にしたのが、「ローカル線存続」「ローカル線の乗客数増加」ではなく、「ローカル線の価値向上」をテーマにしたことです。必ずしも、<利用客が増えること=価値向上>ではないはずです。

―まさに、地域での学びを編集するというコンセプトだと思いました。

地方の中山間部は、さまざまな課題が山積しています。そしてその多くは、過疎化という現象と切り離すことができません。しかも、この過疎化、人口減は、簡単に解決できるものではないでしょう。

つまり、根本的な解決が難しい中で問題とつきあっていかなければいけない。場合によっては、「本当に問題なのだろうか」「ずっと問題のままなのだろうか」という問い直しが必要になるかもしれません。

その意味では、ローカル線の存続をはじめとする課題について、「これはなぜ、いつまで、だれにとっての問題なのか」と角度を変えながらいろいろな人たちと語り合うことは「課題の編集会議」といえるかもしれませんね。

僕は30年間くらいずっと編集者をしてきたんです。地域に向き合う時に意図的に「編集をしよう」などと思ったことはありませんが、結果的には「編集」だったんだなと思います。人がたくさん関わるので、紙の編集よりも工程が読めないのですが。

―あえて高校生と一緒にこのプロジェクトを行おうと考えたのはなぜですか。

平成筑豊鉄道の価値向上は重要なテーマですが、それと同時に、参加する高校生が活動を通してこれからの社会で必要な資質・能力を身につけることを重視したかったからです。そうした高校生が、大学生や社会人となって地域に継続してかかわることも期待しています。

地域の沿線の高校3校に行って、「地域の教育活動として、一緒にこんなことをやりませんか」と先生に話をしました。そうして許可を得て、子どもたちの前でプレゼンテーションをして回り、興味がある子に呼びかけました。

現在学校現場では探究活動が重視されていて、生徒たちにどう課題設定をさせるか、どうしたら主体的に活動に取り組むのかで、先生方は悩んでいます。高校生たちも社会に出てから探究する力が重要であるということを知っています。

こうした背景もあり、興味を持った高校生がだいたい一つの学校で10人ちょっと集まってくれました。さらに、「三四郎の学校」に参加している地域の大人や大学生にも声をかけ、「へいちく価値向上プロジェクト」が始動したのです。

「うまくいかない」を知る体験を

―「へいちく価値向上プロジェクト」ではどのような活動を実施しましたか。

活動として、月に1回は犀川駅の駅舎で集まって対話をし、あとはSlackで連絡を取り合いながら価値向上をしていこうと型を決めました。

夏にかけてはテーマを掘り下げるチームづくりをし、社会人や大学生が加わったグループでさまざまなテーマで対話を重ねながら思考を広げていきました。

秋からはアプローチするテーマを検討。11月のミーティングでは、「1.価値とは? 2.具体的な平筑の価値はこれ? 3.価値向上のために3月までの道のり」について話し合い、漠然とした価値と具体的な価値について行き来しました。

その話し合いの中では、他の鉄道のインスタを確認しているチーム、「自分たちが困っていることを出すのが第一歩だよね」と箇条書きで課題点を洗い出しているチームなどが出てきました。

その日のミーティングの最後には、「電車内は高齢者の憩いの場になっているからその質を高める」「テーブルを設けて高校生が勉強できるようにする」「平筑の認知度を上げる」「駅の周辺でイベントを打つ」などが出されました。

また、各グループは、電車の利用客にインタビューをしたり、校内で電車の利用頻度のアンケートを取ったりと次のミーティングまでに活動を重ねました。

こうした取り組みの中から「車内子ども絵画展覧会」「落書きアート」「地元イベントと連携したローカル線スタンプラリー」「地元高校生による割引乗車チケット活用ガイド動画の作成」「ローカル線マナーアップキャンペーン」などのテーマが出されました。3月でまとめと振り返りを予定しています。

―プロジェクトの手応えはいかがですか。

高校生がSlackに慣れていない、部活動などによって集まれないなど、ちょっとした障壁は挙げだしたらきりがありません。これらは、大人にとっては「小さな問題」ですが、高校生にとっては「大きなハードル」なのかもしれません。

そして、僕や関わっている大人たちは大きく2つのことで戸惑いました。
1つは、高校生たちが「アンケートを取ろう」「インタビューをしよう」という手法論に陥ってしまいがちなことです。

本来であれば、仮説を立ててそれを検証するための手法としてアンケートを使うはずです。しかし、そうはならない。いつの間にかアンケートを取ることが目的になってしまっているようなことがありました。

もう1つは、勝ち負けから抜け出せないことです。高校生が真っ先に挙げる価値向上の発想は、「ラッピング電車を作ってインスタ映えにしよう」ということ。一過性であったとしても乗客を増やしていく方法を考えるわけです。たしかに、それも一つの価値向上です。

しかし、ここは過疎化が進み、観光のコンテンツも決して豊富ではなく、そうした数の理論で勝負するのが厳しい土地なわけです。

そもそも、どこかの地域と、人を取り合うという戦いの舞台に乗るのが本当に正しいのか。高校生たちと向き合いながら、僕にはすごく迷いがありました。

―高校生だけでなく大人でも地域の問題を解決をすることは簡単なことではないですよね。

その通りです。公務員の方や様々なコンサルタントが頭をひねっても答えは出てこないかもしれない。「そんな問題を高校生が考えることに意味はあるの?」という意見も当然あるでしょう。でも、答えが出ないから、やっても意味がないということではないと思うんです。

例えば、大学やラボでの研究も日の目を見るのはごく一部。多くは結実しないですよね。しかし、その過程を無駄だとは誰も言わないでしょう。このプロジェクトも同じです。

大人が考えつかないようなすごいアイディアが出る可能性はゼロではない。でも、たとえ突破口は見つからなくても意味がないわけではない。子どもたちが1日何回か本来は考えなくていいはずの「ローカル電車の価値向上」に真剣に思いを馳せる。そのプロセスに教育があると思うんです。

―大人としてどう関わるか悩ましいですね。

はい、活動をスタートしてからずっと悩んでいます。例えば、大人が「まずこの課題を解決してみよう」とレールを敷いたりすることもできます。でも、せっかく「そこにたどり着かなければいけない」という到達目標がないプロジェクトなのだから、レールは敷きたくはないと僕は思ったんです。失敗も全て学びにしたいな、と。

「へいちく価値向上プロジェクト」の大きなビジョンは、ローカル電車の価値向上なのは明確です。しかし、その手法や領域は高校生の自由意志に任せています。数値化できるような価値向上を急いで行うこともできますし、そのアクションを否定はしません。それも大事だと思うからです。

でも、このプロジェクトは、目標は明確ですが変化や成果は急がない。価値向上の「役割分担」として、急がないという部分を担っていると捉えています。

大人の役割は、地域という課題の密集地で子ども達をいかに絶望させずおもしろく考えさせられるかなのではないかと最近思うようになりました。

もしかしたら、都会であればそんな機会はたくさんあるのかもしれません。では、田舎は機会がなくていいのかと言われると、そんなことはないと思うのです。

多様性を価値と捉える力を得てほしい

―「地域の衰退をなんとかしよう」と考え始めると、「大型ショッピングモールを作ろう」とか成果が見えやすい振興の方法を採りがちだと思うんです。急がない「へいちく価値向上プロジェクト」では、現段階で成果や課題は見えていますか。

成果はなくて課題ばかりです、すいません!(笑)
1年間で明確な成果を出すことは難しいし、数字で明確化できるような結果を出したいのかというのも違うような気がしています。もしかしたら、高校生たちが大人になるまで成果を実感することはできないかもしれません。

価値観がぶつかり合った時に、他者の価値観の受け入れ方を学んでこなかったら延々に対立し続けることになってしまうでしょう。地域の問題は複雑であり、そこに住む人々の価値観も多様です。

だから、高校生のうちに自身とは違う価値を受け入れる姿勢と、そこからよい手立てを考えていく方法を学ぶ機会にしたいと思いました。

そして、可能であれば「へいちく価値向上プロジェクト」で、多様な人がいて、多様な考えがあったからこそ、地域の問題を解決できたという成功体験を得てもらいたいと考えています。子どもたちと地域双方にとってプラスになるようなプロジェクトが、それぞれの地域に生まれるといいですね。

■プロフィール
日賀優一◎1966 年福岡県生まれ。教育分野を専門とする編集プロダクション・有限会社 ペンダコ代表取締役。ベネッセコーポレーション発行の高校教師向け情報誌「VIEW21」の制作に長く携わる。2013 年 12 月より、みやこ町 を拠点に、中学生、高校生が地域の社会人や大学生と「答えが1つではない問い」について語り合う対話の場「三四郎の学校」を運営する。 さらに高校教師を対象としたカリキュラム・マネジメント研修なども実施。

株式会社レゾンクリエイト

佐藤 智

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。中学校・高校の教員免許を取得。中央経済社、ベネッセコーポレーションの教育情報誌『VIEW21』の編集を経て、ライターとして独立。株式会社レゾンクリエイトを設立。著書に、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』(共著、翔泳社)がある。

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