仕事も子育ても自分らしく
究極のライフワークバランス
第一線で活躍するクリエイターに、
これまでの歩みや仕事への想いを語ってもらう「LIFE TALK!」。
今回は、異色の経歴を持つデザイナーの阿部彩芽に話を聞いた。
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仕事も子育ても自分らしく
究極のライフワークバランス
第一線で活躍するクリエイターに、
これまでの歩みや仕事への想いを語ってもらう「LIFE TALK!」。
今回は、異色の経歴を持つデザイナーの阿部彩芽に話を聞いた。
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実験漬けの日々からの転向

社長秘書のような上品な佇まいと、ほんわかとした空気感を持つデザイナーの阿部彩芽。この世界に入って10年近くになる彼女は、広告制作会社を経 て、現在はフリーランスで活躍するデザイナーだ。デザインを学んだのは専門学校だが、実は彼女、デザイナーを志す前は大学で化学を専攻し、毎日のように試 験管を振る実験漬けの日々を送っていた。そんな彼女が現在のような職に就こうと思ったきっかけは、自分の将来について考えた時のことだった。

「この先結婚をして子供を産んで、果たして10年後も20年後も研究職を続けていけるのだろうか」。

そう思い悩んだ彼女は、“変われるのは今しかない”と思い、進学が決まっていた大学院を休学。もともと好きだったデザインを学ぶために専門学校へと進ん だ。大学時代は論文を書く際にデザイン系のソフトを使ったり、昔から絵を描くことが大好きだったため、別の分野に身を置いてもまったく違和感を感じなかっ たそうだ。

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そうして学ぶうちに化学に対するわずかな想いも断ち切れ、専門学校の卒業と同時に就職。晴れてデザイナーとしてのキャリアをスタートさせた。新卒で入社 したのは社員数100名前後の大手広告制作会社で、そこではポスターやパッケージ、DM、チラシ、パンフレット、車内広告、商品の店頭POPなど、紙に関 わるデザインであればほとんどすべての仕事を担当した。時代はちょうど紙からWebへという流れの中、紙媒体とWebが連動する案件も増えてくる。最初は IllustratorとPhotoshopでデザインを上げてそれをコーダーに投げていたが、徐々に自分でもコーディングができるようになってきた。

仕事は想像以上に忙しかったけれど、「念願のデザイナーとしての仕事は本当に充実していた」と彼女は言う。けれどそんな頃、阿部はまた1つ新たな決断をした。

フリーランスとして羽ばたく

「私が以前就こうとしていた研究職の仕事は、企業に属していないと成り立たない仕事でした。それでは子供が産まれた後に働き続けている姿が想像できなく て。手に職があれば違う働き方もできるのではないかと思い、今の道を選んだというのもあるんです。だから会社員としてデザインの仕事をしながらも、やはり いつかはフリーランスになりたいという考えがあって、タイミングを見計らっていました」

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女性がキャリアを考える上で最も重要な時期と言われる27歳。ひと通りの仕事内容を把握して任せてもらえるようになった頃、阿部もまたそこで一度立ち止まり、3年勤めた会社を辞めて独立を果たした。周りの同期はまだまだ会社に残っていたし、辞めていく先輩たちの中にもフリーランスになる者は少なかった。けれど彼女は「まずは一度やってみよう」と希望を胸に会社を去ったのだ。

実際フリーランスとしての仕事が始まってみると、不安なんてどこ吹く風、あれもこれもやらなくてはと急く思いと楽しさとが打ち勝つ日々が待っていた。ある時請け負ったパソコンスクールの仕事では、通常のデザイン業務以外に講師の仕事も依頼され、できることは全部やってみようという考えから試しに始めてみた。するとこれまで自己流でやってきたことを理論立てて説明するということが、自分にとっても勉強になって面白い。デザイナーとしての仕事の傍ら、阿部は3年近く講師業を続けたが、本当に良い経験になったそうだ。

会社を離れた当時は、業務委託でデザイナーを募集している求人を探し、自分のできることをアピールして仕事につなげてきた。今ではそれが継続的な仕事となり、季節が変わるごとにデザインを依頼されたりと、クライアントとは長期的な付き合いが続いている。また、1年ほど前からはクラウドソーシングのサイトに登録し、空き時間をうまく使おうと心掛けているそうだ。

学生時代に思い描いた人生設計が花開く

順調にキャリアを積み上げてきた彼女は今、デザイナーとしてだけでなく、プライベートでは母親という顔も持っている。学生時代、結婚して子供を産んでそれでも変わらず働き続けたいと願った想いが叶い、今では3歳の女の子の母親として仕事と子育てを両立しているのだ。

子供を一時保育や家族に預け、毎日朝9時から夕方まではデザイナーとして働く。子供が寝てからまた深夜まで仕事をする日々だが、その生活が思いの外充実している。子供がいる方が仕事にもメリハリが出て、仕事の合間を縫って出掛けるのが返ってリフレッシュになるそうだ。そして子供との時間を作る時は、なるべくメールの返信が来ないタイミングを狙うなど、できるだけ仕事とプライベートを切り分けるように努力しているという。

産後、まだ通常業務に戻れなかった時期は、イラストのストックを増やしたり、営業の窓口となる自身のWebサイトを充実させるなど、普段なかなかできないことをしながらいつ復帰しようかとチャンスをうかがっていたそうだ。

常にうまく時間をやりくりして仕事をこなすイメージの彼女だが、「実は出産直前まで仕事を抱えていて、病院まで仕事を持って行くかギリギリまで悩んだんですよ」と笑って話す。最近では、少し時間が空けば映画や大好きな旅行に行ったり、友人と美味しいものを食べに行ったり、同業者と情報交換したりと、ストレスを溜めないようにちょこちょこ発散しているそうだ。

育児と仕事を両立するようになって3年。その影響は、少なからずデザインのテイストにも表れているようだ。出産前はスッキリとしたデザインが好きだった彼女だが、子供を産んでからは可愛らしいものを見るようになったため、あまり得意ではなかったほんわかしたテイストも好きになってきたと言う。今では、自然に出てくるのが女性的なデザインや可愛らしいテイストのものだそうだ。

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そんな彼女に、クリエイターとして刺激をもらえるスポットを尋ねてみると「とにかく街に出るんです」とひと言。書店や美術館、クリエイターの展示会に行くのも好きだけど、街に出るだけでそこにはデザインされているものが溢れている。スーパーやコンビニにはカラフルな食品のパッケージが並び、電車に乗ればさまざまなデザインの中吊り広告がある。それらを見ながら、自分だったらどう作ったか、どんな発注があってこうなったのか、と考え巡らすのだ。そしてそんなデザイン探しの外出は、行き詰まった時にも役立ってくれるのだそう。

さらに仕事のスタンスについて尋ねると「せっかくお仕事をいただいたのだから、できる限りクライアントの要望以上のものを上げる」との答え。仕事に対してはチャレンジだと思うことも多いそうだが、そこは努力でカバー。仕事を受ければ受けるほど新たなことを学んでいると実感し、同時に勉強しながらでもやらせてもらえるうちがありがたいと思うそうだ。

企業に属していた頃は確実に仕事を振ってもらえるけれど、フリーになった今声を掛けてもらえるということはまた違った意味合いを持つ。仕事をしていて彼女が最も嬉しい瞬間は、やはりクライアントが喜んでくれること。同じクライアントからの仕事が2回3回と続くと、前回かけられた感謝の言葉は嘘じゃなかったんだと思うそうだ。フリーランスはたった一度の仕事がその先を左右する。「フリーランスのデザイナーはネット上では傭兵みたいだって言われているんですよ」と彼女が教えてくれたが、確かにそうかもしれない。

「でもフリーランスの仕事には、企業にいるだけではできなかったことがたくさんある。大きなプロジェクトに関わるよりも、クライアントに喜んでもらえる仕事をもっと増やしていきたい」。そう彼女は最後に力強く話してくれた。

プロフィール
大阪大学工学部を卒業後、同大学大学院に進学すると同時にデザイン専門学校にてグラフィックデザインとWebデザインを学ぶ。
専門学校卒業後は都内の広告制作会社に入社し、グラフィックデザイナーとして勤務。大手企業の広告デザイン全般に携わる。
現在はWebデザイン、グラフィックデザイン、イラストレーションを守備範囲にフリーランスとして活動中。

http://liltondesign.com/
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