喜びも苦しみも、日々のカケラを絵の中に散りばめる
茨城県で活躍する画家・伊敷トゥートの仕事と人生
IMG_6641-TOP
喜びも苦しみも、日々のカケラを絵の中に散りばめる
茨城県で活躍する画家・伊敷トゥートの仕事と人生
このエントリーをはてなブックマークに追加

JOB『やっちゃいなよ!』に背中を押され

──トゥートさんの現在のお仕事について教えてください。

書類上は『イラストレーター』と書くことが多いのですが、絵の展示会をすると、私って画家なんだなあと感じます。
自分の中のイメージでは、イラストレーターはオーダーに合わせて絵を描く人。画家は自分のパッションを表現する人。
これまでには“誰かのなにか素敵なもの”をコンセプトに絵を描いてきたこともありますが、近年は自分が心地良いもの、
好きだと思うもの、ありのままの自分の気持ちを表現していきたいと考えるようになりました。

──画家になるきっかけは何だったんですか?

小さい頃から絵を描くことが大好きで、将来は画家になりたいと母に伝えると『画家になれるのは一握りだから無理よ』と
言われてしまいました。当時は素直に『じゃあ無理か。やめよう』と諦めてしまったんです。
でも、絵を描くことは好きだったので、中学・高校では美術部に入って絵を描いていました。
高校卒業後は安定した医療関係の道へ進もうと思っていましたが、見学に行っただけで疲れてしまい……。
そんな時、ちょっとでも自分が好きなことを仕事にできないかと考えたんです。
そして、デザインの専門学校へ入学しました。

IMG_1432-1

──安定した道よりも、自分が好きな道を選んだのですね。

専門学校の友達のお父さんが画家で、ある時、展示を観に行く機会があったんです。
そこでお父さんから『キミたちもやっちゃいなよ!』と言われ、衝撃を受けました。
特別な才能がなければ展示なんてやっちゃいけない、自分には関係ないと思っていたのですが『やっちゃいなよ』の一言で
敷居が一気に下がったんです!

その後、思い切って学校の友達と一緒に展示を開催しました。絵を飾るだけでなく、空間作りも工夫して、思い描いた世界観を作り上げた結果、たくさんの人が観に来てくれました。
また、地元のアートイベントでやった『まるいもの屋台』という企画も思い出深いですね。『燃料切れで星に帰れなくなってしまった宇宙人』と紙芝居をしながら町中を練り歩き、燃料となる“人の優しさ=まるいもの”を集めてまわるんです。
子どもからお年寄りまで、色々な”まるいもの”を分けてくれました(笑)
この時の経験が、今の自分の基盤になっています。

LIFE息子と過ごす、愛おしい時間

IMG_6681-1

──絵を描いていない時は、どんなことをして過ごしていますか?

息子を生んでからは育児が生活の中心になっています。
もうすぐ2歳になるんですけど、朝起きてお互いに見つめ合ってニコニコしながら、カップルみたいにイチャイチャする時間が幸せです(笑)
日中は二人でよくお散歩に出かけるんですが、子どもと一緒にゆっくり歩いて立ち止まってみると、新たな発見もあって面白いですよ。それから、人に助けてもらえることが増えました。私だけで歩いていたら喋らない人も、子どもを通してコミュニケーションができたり。必ず誰かが喋りかけてくれて楽しいです。

──お子さんを生む前と生んだ後で、描く絵は変わりましたか?

描く絵は経験値によって変わってくるんだと分かりました。
特に画力を上げるための努力はしていないので、大丈夫かな……と少し不安になる時もあったのですが、人生で感じたり
考えたりしたことが、そのまま絵に出ちゃうんですよね。自分自身が成長して絵が変わる。月単位でも変わってきます。

LIKE日々のカケラから生まれる作品

IMG_6482-1

──ご自身の絵で、いちばん気に入っている作品は?

最新作が最高傑作だと思って作っているので、いちばん新しい絵がいちばん好きな絵です。

──現在、3年ぶりとなる個展を開催中ですよね。お客さんたちの反応はどうですか?

今回の個展は『それぞれの物語展』というタイトルなのですが、会場で絵を見て涙を流す人もいました。
自分の日々の経験のカケラから作品を作り、見てくれた人が私の作品の中に自分のカケラを見つけてくれて、心に響いているようで嬉しいですね。

──ライブペイントのイベントをしたり、グッズも販売しているのですね。このバッジは、もしかして息子さんですか?

IMG_6490-1

そうそう、うちの子です(笑)
展示してある絵の中には、息子も登場しています。

個展のほか、普段は『イロドリ処方』という企画もやっています。これは、お話を聞きながら、今のその人にぴったりの絵を描いていくというものです。言葉にできなかった思い、最初から自分の中にあったけど気づかなかった気持ちが絵になって現れるので、感動して涙を流す方が多いです。みなさん最後は希望を持って帰って行かれます。

CHANGE苦しみも辛さも、ありのままを

paint-1

──これまでの人生の中で、ターニングポイントはどんな時でしたか?

転機はいくつかありました。絵を仕事にしようと決めたのも大きな転機です。
そして、この3年間で、結婚、出産、病気、そしてシングルマザーになったことなど、たくさんの経験をして、ようやく自分の気持ちを大切にできるようになりました。

──多くの経験をされてきて、今のトゥートさんの作品があるのですね。

3年前に地元の新聞社から取材を受けて、1月1日の新聞の一面を飾ったことがあるんです。よし!これから画家として本格的にスタートするぞ!と思った直後に、お腹に子どもがいることが分かりました。そこからは波乱万丈(笑)
でも、それらの出来事は本来の自分に戻るために必要なことだったんですね。お母さんになっての気持ち、自分の辛さや悲しみ、色んな気持ちを受け入れて、苦しいことも悪いことも『それはそれでいいんだよ』ってありのままを受け入れられるようになりました。
だから、今の作品は頑張って作り上げているものではなく、自然と自分の中から出てきたものたちなんです。

SENSE初めて“黒”を使った

paint2

──トゥートさんが絵を描く中で大切にしている感性とは?

自分に嘘をつかないこと、感じていることに対してありのままに表現する事です。
良い風に見せたいという気持ちは排除し、素直な気持ちで描いています。
以前の私は、辛い時に描いた絵なんて飾ってどうするんだろう?と思い、明るい気持ちの時にしか絵を描きませんでしたが、それも変わってきました。
今回の個展では初めて黒い絵の具を使っているんです。作品も人生も連動していて、辛いことが増えた分だけ暗い色が増えて、でも、それだけ色の幅が広がる。暗い色があるから明るい色がより輝き始めました。
それから、すごく辛い時に描いた絵が明るい色で溢れていて、『私の中には、まだこんな色が残っていたんだ』と嬉しくて泣きながら描いたことがありました。
絶望している時にこそ、希望を持っているものなのかもしれないですね。

──最後に、今後の展望について教えてください。

最近は海外のお客さんからも好評をいただいているので、海外展開もできたらいいなと思っています。
今までは小さな規模で活動していたので、これからはどんどん広げていけそうな気がします。
拠点をどこかに置きながら、自由に旅をして絵を描く生き方も素敵ですね。

 (2017/4/6 佐藤愛美)

message_投稿用

プロフィール
茨城県を中心に活動する画家。
2008年よりsuim++(スイムツープラス)としてユニット活動を開始。
絵本製作・読み聞かせ、ライブペインティング、展示活動を行う。2011年解散。
2012 年より伊敷トゥートとしてソロ活動を開始。
イラスト製作やクラフトイベントでオリジナル作品の販売、ライブペインティング、展示活動を行う。
2017年3月には、3年ぶりとなる個展『それぞれの物語展』を開催。

話を聞きながら“今のあなた”に寄り添った絵を描く『イロドリ処方』の予約も受付中。
ビデオ通話での処方も行っている。
http://ishiki-thoth.com/index.html
この記事をシェアする