人との関わりを絶った『孤高な人』っていう
画家像をひっくり返したい
別府の芸術祭「わくわく混浴デパートメント」のコーディネーターで、
画家の勝正光さんに話を聞いた。
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人との関わりを絶った『孤高な人』っていう
画家像をひっくり返したい
別府の芸術祭「わくわく混浴デパートメント」のコーディネーターで、
画家の勝正光さんに話を聞いた。
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「人当たりの良い孤高の画家」を目指しています

――勝さんは画家さんでいらっしゃいますが、具体的にはどんな仕事なんでしょうか。

今回はたまたま「わくわく混浴デパートメント」という展覧会のコーディネーターをやっていますが、本業は画家なので、絵を注文されて描くとか、展示をして売るとかそんな感じですかね。あとは、「食べるため」という感じではないんですが、「子供会の夏休み絵画コンクール」の審査委員長をやっていて、その絵画教室をやって、ギャラがあったり……。そういう合わせ技で何とかなってます。

やりたいことをやりたいから、「収入のために働く」ってことに従属せずに、生活レベルを落とすっていうことですよね(笑)。地域と関わりながらやっている僕のスタイルを珍しがってくれることもあるんですけど、こういう環境の中で、ど・アートな現場でも通用する作品を作りたいっていうのが目標です。

作品を作る時に、画家と言えば、東京ででやらなきゃいけないとか、人との関わりを絶った「孤高な人」っていう作家像をひっくり返したいっていうのがあるので、「人当たりの良い孤高の画家」を目指して別府で頑張っています。

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(勝さんの作品。一般的な鉛筆で塗りつぶしたこの作品は、鉛のような独特の質感を持ち、一見して紙とはわからない。)

――勝さんは鉛筆だけを使って描かれていますが、今の手法になったのはいつ頃なんでしょうか。

2005年からですね。在学中はずっとデザイン科にいて、絵を描く学科ではなかったんですけど、卒業と同時に鉛筆で絵を描くという手法の作家活動を始めました。その頃から、絵の快楽に任せて没頭していると、危ういって気持ちになってしまって、何とか今描いてる絵以外のものも絵にできないかなって思って、鉛筆で塗りたくって、絵っていうよりは鉛の板っていうか、ジャンルで言えば、彫刻みたいな風に見える作品を作っていたんです。

でも、その手法を続けていけば続けていくほど、今度は手法にのめり込んでいるんじゃないかと思って、また不安になってくるわけですよ。でも、「どうしたらえぇんか」っていうのがわからなくて……。その頃に、今一緒に「わくわく混浴デパートメント」のコーディネーターをやっている遠藤一郎君に「別府っていうものがあるんだけど」って言われて、「それしかないかもしれん」と思って、すがるような思いで清島アパートに来ました。2009年のことです。

清島アパートっていうのは、「アート版トキワ荘」みたいな感じのレジデンスで、今年の「わくわく混浴デパートメント」の前身である「わくわく混浴アパートメント」というイベントの会場でもあった場所なんですが、その大家さんに、一番大切にしている写真を書いてって言われたことがきっかけで、思い出の写真を書き始めました。それが、別府の人の絵を描き始めたきっかけにもなっています。

――別府の清島アパートで生活するようになって、制作にどんな変化がありましたか?

最初は、今まで通り、部屋にこもって絵を描こうとするわけですけれども、近所のおじさんが覗きに来たりするからこもって描けないわけですよ(笑)。しかも、アートの場所とは言え、普通のボロアパートですので、その周辺の環境に地続きで、地域に根差しながらの美術表現がここならできるんじゃないかって思って、移住を決めました。初めて別府に来たのは3月中旬だったんですが、ゴールデンウィークには家を引き払いに東京に帰っていたので、決断は速かったですね。

「別府の街に溶け込む」ことを大切にしています。

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(勝さんが暮らす清島アパート。戦後すぐに建てられた元下宿をNPO法人BEPPU PROJECTが借り上げ、運営している。2009年の「わくわく混浴アパートメント」の時には、アーティストの宿舎兼展示会場となった。2010年より現在の定期募集の形態がとられている。)

――日々の生活で意識されていることって何かありますか?

そうですね、「街の仕事は選ばない」っていうことは意識しているかもしれません。自分が目指そうとしている作家像に「街に溶け込む」ということが大前提としてあるので、その環境を得るために、街の仕事はできるだけ積極的に受けるようにしています。

――別府に移り住まわれて6年が経ちましたが、「街の仕事は選ばない」ということが活きてるなって思ったエピソードなどってありますか?

最近で言うと、「画家の勝くん」っていうのが浸透してきて、街の人がアイデアをくれることがありますね。別府には、湯路(ユーロ)という温泉に入れる地域通貨があって、今回、僕が湯路発行元である「アチチ中央銀行」の11代総裁に就任したんです(笑)。その時も、「総裁が画家やから、絵を描いてくれたらえぇんやけどな」みたいになって、新しい作品に繋がったりとか。

あとは、新聞に載った記事を見て、清島アパートに訪ねてきて、「ここに絵を描いてくれる先生がいるって聞いたけん、描いてほしいんや」とか言ってきてくれる人もいますね(笑)。放っておいても、描くものが増えてくるようになったのは感じています。

――それは、きっと別府の地域性もありますよね。

ここだからこそ、勢いがつくというか、一番得な土地だとは思ってます。そして、清島アパートっていう環境があって、4年目か5年目になったとき、自己紹介が「清島アパートに住んでます」で済むようになったんですよね。それが1つのクリアしておきたい到達点だったのかなと思ってるんですけど、「これは勢いついてきたな」って思った瞬間でした。

好きなことよりも「単純な」気晴らしが一番かな。

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――普段、温厚でにこやかな勝さんですが、ストレスが溜まったときなんかは何をして発散しているんですか?

うーん……。普段、やらなきゃいけないこと以外のことをするっていうことですかね。競輪とか、湯けむり見に行くとか、ラーメンめっちゃ食うとか(笑)。僕、実はももクロとサッカーが大好きなんですけど(笑)、それはそれで熱中してしまうので、単純な気晴らしにはならない。単純な気晴らしは、何も考えないでできるから一番いいかな。あとは、やったことのないことをやるのも良いかもしれないですね。

敵味方なく、人に接することができる人にセンスを感じます。

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――勝さんが「センスがいいな」と思う人って身近にいらっしゃいますか?

センスに嫉妬するのは今のところ、「ライスボール山本」ですよね。彼は、別府に住んでる世話好きな、近所の普通のおっちゃんで、僕も別府に移り住んでからお世話になっている人なんですが、山本さんの敵味方の無い、人への接し方にはセンスを感じています。

全然知らない人の家に普通に入っていったりして、「はい、山本です、あんた誰かい?」って言うんですよ(笑)。相手の名前知らなくても、自分の名前を名乗れば何とかなるって思ってるんでしょうけど。もちろん、相手にしてみれば「あんたこそ誰かい?」って話なんですけど(笑)。あぁいうのを見て、「山本さんをスペースシャトルに乗せましょう。あの人だったら、初めて会う宇宙人の警戒も解くことができる」っていう、うまいことを言う人もいたくらいです(笑)。あの人はそういうセンスを持ってますよね。

――「そういうセンス」を具体的に言葉にすると、どんなことでしょうか?

人を心の底から信じていて、信じているっていうことを相手に伝えられるってことかな? 彼がどこまで意識的にそれをしているのかは分かりませんが、なかなかマネできない部分だと思います。

(佐々木)

プロフィール
1981年生まれ。「わくわく混浴アパートメント」(混浴温泉世界2009関連企画)参加を機に会場だった清島アパートに移住、地域に浸透した上で作品発表を続ける。現在在住7年目、別府市子連夏休み絵画コンクール審査委員長、別府路地裏の地域通貨「湯路(ゆ~ろ)」発行アチチ中央銀行第11代総裁、児童館絵画教室講師、まちあるきガイド、やよい天狗通りスタジオ風穴店長、わくわく混浴デパートメントコーディネーター、2006年「GEISAI#10」銅賞、佐藤可士和賞、電通賞受賞。アーティスト活動10周年。

ブログ:http://katsujp.exblog.jp/
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