ha | za | ma の大人に向けたセーラー服がカワイイわけ。
ファッションデザイナーの松井諒祐さんに話を聞いた。
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ha | za | ma の大人に向けたセーラー服がカワイイわけ。
ファッションデザイナーの松井諒祐さんに話を聞いた。
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JOB僕のブランドを知ってもらう窓口を作りたかった

――いま、松井諒祐さんが着ている服は、ご自身のブランドの服なのですか?

そうです。でも、普段は動きやすいデニムにニットとかなんですよ。作業をしていることが多いので、動きやすさ重視の服を着ることが多いですね。
人前に出るときとか、打ち合わせのときは自分の服を着ています。「それ、どこの服なんですか?」と聞かれたら、「自分のです」と言えたほうがいいかなと(笑)。

――かっこいいですよね。ご自身のブランドを着ている、こんなかっこいいことないですね。

気持ちはちょっと上がりますね(笑)

――松井諒祐さんのブランド、ha | za | ma はいつから始められたのですか?

まず、文化服装学院を卒業した2013年に学生時代から使っていた「Matsui Ryosuke」の名義でブランドを本格始動させました。その後2014年に「ha | za | ma」の方がしっくりくるな……と改名したのが始まりです。ちょうどこの改名の時期が、僕の中で服づくりとの向き合い方が少し明確になってきた時期でもありました。

――2011年に慶應義塾大学の商学部を卒業されて、その後、文化服装学院に入られていますが、いつくらいからファッションデザイナーになりたいと思われたのですか?

大学3年生の就職活動の前です。僕は高校生のころは服に全く興味がなくて、大学2年生くらいになってから服を買うのが好きになったんです。大学3年生になって就職活動で髪を真っ黒にして切らなきゃいけないという時がきたとき、そのときはそれが嫌で先延ばしにする方法として……という感じでした。

――就職を先延ばししたいということもありつつ、ファッションデザイナーになりたくて文化服装学院に進んだわけですね。

僕は、自分がやったらやっただけ評価が得られて、やらなかったらやらなかっただけ何も得られない世界で生きたいと思っていました。あくまで個人的な偏見と経験則ですが、就職するとやらなくても一定は保証されたり、逆にいくら頑張っても一定以上は得られないというのがある。そういう環境だと僕はいかに働かずに、でもギリギリ首にならないかを考えてしまうようなダメ人間なので(苦笑)長い目で見て自分のモチベーションがずっと維持できるのは、全て自己責任の下で働くことかなと。そこで起業することを考えました。

あとは、起業するなら何となく物作りがいいなというのもありました。音楽にしろ写真にしろ絵にしろ文章にしろ、単純に自分の世界観を形にして表現できるってかっこいいなという気持ちがあったんです。「じゃあ、自分に何ができる?」となったとき、「だったら自分は服を着るのが好きだから、服を作る側に回れないかな」という半ば思いつきでファッションの道を選択しました。

――服飾を学ぶのに文化服装学院を選んだのは?

実はこれもけっこう単純なんです。服の学校で検索すると文化服装学院が上位に表示されるということと、あとはファッションデザイナーの山本耀司さん(ヨウジヤマモト)や川久保玲さん(コムデギャルソン)は慶応の先輩なんですけど、山本耀司さんは大学を卒業されて文化服装学院に行かれてるんです。僕は全くそんな大先輩のレベルではないし、ここで話に出すだけでも恐れ多いんですけど、経歴だけでも真似られたらかっこいいなと思ったんです(笑)。

――かっこいいですね、その発想は。在学中から自分のブランドを立ち上げられたんですよね。

そうです。もの作りのレベルは低くても、とりあえずでも始めないと、いつまでも売れるものは作れないなと思って。当時はほとんど売れなかったですけど、売るってことはやっていましたね。

――文化服装学院に入る人は2通りあって、自分でブランドをやっていきたい人と、どこかのアパレルに入りたい人に別れると思うんです。松井諒祐さんはもちろん、最初から起業しようと思って入学されたわけですね。

僕はそうですね。

――同期の方はどうですか?

起業した人はほとんどいないかもしれません。僕が同級生の動向を全然把握できてないだけかもしれませんが……。卒業制作でデザイン的にも技術的にもものすごい服を作った人に与えられる学院長賞というものがあるんですけど、そういう賞を取るような人達でさえ、ブランドを立ち上げるという話は聞きませんでした。いや、これ本当に僕の情報量不足なだけかもしれませんが……(苦笑)。
ただ、デザイン性の高い服を作れるということと、ブランドを経営していけるということは完全に別の話だというのはすごく感じています。

――その中でも、ブランドを経営してやっていけるという感覚はあったんですか?

最初から妙な自信だけはあるんですよね(笑)。服作りなんてやったこともないくせに、「ちゃんとやっていれば、絶対にいける」という、よくわからない自信だけはずっとありました。

――洋服って一番難しいじゃないですか。ファッションブランドは小さなものからスタートさせるのが一般的で、Tシャツだとか、最近ではニーハイから始める人がけっこういたりする。でも、松井諒祐さんははじめから洋服だった?

Tシャツやニーハイをやる人ってグラフィック系の人が多いと思うんですよ。イラストや柄作りに強みを持ってる人といいますか。けれど僕がもともと好きだった服はまた別ジャンルで、どちらかというと素材とか形とかもっと服飾の技術よりのもの。縫製・素材の基礎などから考えて、形とかにこだわったものが好きだったんです。なので何かがプリントされたTシャツやアパレル小物というよりは、プリントとか何もなくても服として個性的なものを作りたいという気持ちでした。たぶんこれは入口が違うんだと思います。服のデザインに対してパターンから入る人とテキスタイルから入る人で、そこから大きく分かれているんじゃないかなと。

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――ha | za | ma というブランドのコンセプトとは?

始め自分の名前の「Matsui Ryosuke」でやっていたのは、変にブランド名をつけちゃうと世界観が決められてしまうというか、「こういう服を作り続けなきゃいけない」っていう縛りが出てきてしまうと思ったんですよね。僕は飽きっぽいので、ずっと同じ雰囲気の服を作り続ける自信はないんです。なので「僕の名前をブランド名にしておけば何をやっても許されるかな」という理由から自分の名前でやっていたんです。
「ha | za | ma」も同じで、世界に属さないというか、あらゆる世界にリンク、コンタクトできるポジションにいたいという意味で、世界の狭間にいたいという想いがコンセプトの1つとしてあります。

――ha | za | ma には「狭間」という意味があるわけですね。

それとあと、生き様。自分の中で最高のファッションって、なんだかんだその人の生き様だと思っているんです。どんな服を着ていようが、その人がかっこよく生きてさえいたら結局、かっこいいというイメージがある。逆に言えば、どんなにいい服を着ていてもその人があんまりかっこいい生き方をしていなかったら、服に着られている感じになってしまう。だから自分に誇りが持てるというか、ちょっとかっこいい生き方ができるように、少しでもプラスになれるような服を作りたいというのがあります。「生き様」の「生」は「は」とも読むじゃないですか。だから生(き)様は「ha | za | ma」とも読めるかなって……(笑)。なので狭間という意味もありますし、生(き)様という意味もあります。結構色んな意味を込めてたりします。

――「大人に向けたセーラー服」という商品はいつくらいにできたものなのですか?

発想としては、ha | za | maを始めた2014年の最初にはありましたね。
僕の中でTwitterでブランドを売り出していくということはイメージにあったんですよ。今の時代は、SNSで個人を強くアピールしていける時代じゃないですか。そこで「Twitterで反響のありそうな服ってなんだろう?」という正直あざとい発想から入っていきました(笑)

良くも悪くもですが、正直どれだけかっこ良かったりデザイン性の高い服を作っても、その魅力がなかなか伝わらないってことは多いんですよ。やはりかわいいよりのアイテムの方が世間的な受けはよい。ただかっこいい系の服も僕はもちろん作りたいですし、たくさんの方に知ってもらいたい。そのためにはまずブランドとしての知名度を上げなくては……!「よし、僕のブランドを知ってもらう窓口を作ろう。じゃあ、セーラー服だ!」と……こんな流れでした。

セーラーデザインの服っていっぱいありますけど、尖りきったものはまだあまりないなというか、かなり反響のありそうなアイテムの割には洗練されきったものはまだ見たことないなと思ってたんですよね。こんなこと言うと怒られてしまうかもしれませんが……。
なので僕はセーラー服を自分なりに一番尖らせたら、洗練しきったらどこまでいけるか、という発想から作りました。

――インタビューさせていただくにしても、今の時代にビビッドな人にインタビューしたいというのが僕にはあったんですね。いつの時代でもいい、普遍的な人って今、インタビューする必要は、ある意味ないよな、というのがありました。今、成功している人は上手くSNSを使い、今の時代をきちんとつかまえている人。そんなところから松井諒祐さんも今の時代に敏感な人だなと思っていました。お話を伺うと、SNSを利用していることを変に隠すのでなく、言い切っちゃっているのが今の時代に合っているような気がします。

これまでに積み上げられてきたファッション業界の流れからすると、正直好かれるやり方じゃないとは何となくわかってます。でも一般的な感覚でファッション業界ってちょっと高飛車というか、とっつきにくい業界だというイメージはどれだけ控えめに言ってもあると思うんですね。そこを取っ払いたいというか、それが逆に今までのファッションの感覚からするとかっこ悪く見えることもあると思うんですけど。でもファッション業界サイドも折れていくというか変わるとこは変わっていかないと、業界そのものの衰退にもつながりかねないと思うんです。そこのバランス感覚を大切に自分の信じた道を突き進んでいけたらいいですね。

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――SNSを使って、どうやってバズらせて、そこからどうやっていく、と考える人は増えてきていると思うし、もっと増えると思います。

これはファッション業界に限った話ではないですが、SNS世代じゃない人達からすると何か気に食わないし危ない流れだとも思うんですよ。要するに下積みが少ないというか。僕は全く売れない時期も普通にあったので下積み時代はまだある方だと思うんですけど、本当に今勢いがある人って10代からすごい勢いで行ってしまう。「こつこつ何年もかけてやって、今の地位を築いた」という人達からしたら、現代のSNSがもたらすスピード感は素直に面白いとは思えないだろうし、危なっかしいやり方なんだとも思います。

はっきり言ってしまえば技術や思考が追いついていなくてもワンアイデアで伸びてしまったりしますよね。でもスピード感がある分飽きられるのは絶対に早い。だからSNSをうまく使うのはもちろん大切だと思いますけど、長い目で見てその世界で残っていけるよう地力をつけていくという意識は本当に大切だと思います。
一発屋にならないというか……。だから僕も常に新しいものを作っていきたいですし、「ha | za | ma =大人に向けたセーラー服」という認識をどんどん壊していきたいなと思います。

――ブランドの営業は、展示会が中心ですか?

今は各地での展示会とWebでの受注でやっています。ただ直営店を早く持ちたいなとは思っています。1店舗でいいからお店を持ちたいですね。

――「スポンサードするよ」みたいなオファーはないのですか?

それはないですね。どなたかが出資してくれるっていうお話自体もちろんないですし。あったとしても今はできる限りお客さんと僕の間に他の企業を入れたくないというか、より直接的な関係でありたいなっていうのがありますね。もちろんはお話が何かくればとりあえずお聞きしたいですが……(笑)。

――製品は小ロットですよね。

セーラー服がまだ多いくらいですけど、大きなアパレル企業からしたら全然小ロットですね。

――アパレルの場合、カラーもサイズも豊富でなければいけなかったりするじゃないですか。コストだけがかかる世界。リスキーなところからよく、スタートさせたなと思うのですが。

サイズに関しては、僕は大きめが好きなので、「オーバーサイズでフリー」と謳っちゃうものが多いですね。自分がタイトなものがあんまり好きじゃないので。
また今は小ロットでも対応してくれる工場を見つけてお願いしています。しかもロット数の割には価格を抑えて作っていただいてます。あとは、どの商品も売り切らなければいけない最終ロットはある程度クリアできるようになってきたので、そこは楽になりましたね。縫製工場さんに依頼できる最低ロットを完売できない時期が一番きつかったです。10着とかだと全部自分で縫わなきゃいけないとか、そういう時期が一番大変でした。もちろんこれもデザイナーさんによると思いますし、縫うのが得意な人にすれば苦にならない着数だと思うんですけど、僕はどちらかというと考えたり発想の方面に時間を使うのが向いてるのかなと最近思います。

――松井諒祐さんの商品写真は、街を背景にしていますよね。商品を白バックで見せるのではなくて、ストリートの中だったりする。これは戦略的なものなのですか?

これは結構言われることなのですが、商品写真て要するに写真なんですよね。結局、写真という落とし所で見るものなんです。だから服がよく見えるとか、どう写ってるとか以前に、写真としてよくなきゃ絶対にダメだと思ってます。

ファッションのルックって服を着てる人が白い背景に立っていて「服を見せる」っていう感じが多いじゃないですか。でも服のルック写真は服じゃなくてあくまで写真なんです。だから写真として見たときにつまらないとどれだけいい服を作ってても反響は起こせないんじゃないかなと思ってます。だから僕は極端な話、服なんてよく見えなくても写真としてよければいいという考えですね。ここら辺はけっこう割り切っています。

やはり最終的な落とし所としてよくないと、どれだけ中に写る服のコンセプトが素晴らしくても、本当に壮大な世界観があったとしても、それを知ろうというところまで気持ちが至らないのが現実なんじゃないかなと思います。

服の詳細とかよさというのはまず興味を持ってもらって展示会などで着ていただいてから知ってもらっても全然遅くないんですよね。

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――ブランドのターゲットの年齢層は?

実際に購入していただいているのは大学生を中心に、10代後半から20代後半の方が多いです。ただこれはターゲットとしていた層とは実は違うんです。

――違うのですか?

僕が本気で対象にしたい層は、30~40代の方なんです。そこはTwitterという媒体とのギャップを少し感じますね。要するに一生着れる服を作りたくて。30~40代になっても着れる服というのは、やはり50~60代になっても着れるものが多いじゃないですか。”一生物”というのは ha | za | ma の1つ大きなテーマかなと思います。

――「大人に向けたセーラー服」も狙いは30代、40代の本当の大人が着るセーラー服が狙いだったわけですね。

本当はそうです。今買ってくれる人も、30代、40代になっても着れる感覚で買ってくれたらいいなと思います。

LIFEシーズンのときはとにかく忙しい

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――今はどんな暮らしなんですか? 日頃は作業しているだけ?

忙しい時期と忙しくない時期の差がすごく激しいですね。シーズン前の4~6月10~12月がめちゃくちゃ忙しい。残りは自分の展示会で全国を回りつつ、のんびりデザインなど考えつつ……メリハリはあるかなと思います。ただ基本的に頭ではずっと服のことばかり考えていますけどね。

――仕事は全部ご自宅で?

けっこう自宅でやることが多いです。

――仕事場があって?

一応、仕事場を1室設けてはいます。でも荷物が増えすぎちゃって、そろそろ出なきゃなというのがあるんです。アトリエ兼店舗みたいなのを構えれたらいいなというのがありますね。

――日中の生活はのんびりと?

のんびりしてるほうだと思います。業務はやらなきゃいけないですけど、通勤とかがないので。そういう意味ではのんびり朝くらいまでやって、昼くらい起きて、またずっと活動してっていう。曜日感覚はなくなってきますね。

LIKE趣味を仕事にしたら無趣味になった

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――趣味はありますか?

それが、なくなってしまいましたね。趣味もないし、物欲もなくなりました。一時期、年に200万くらい洋服を買っていた時期があって、もう全てのバイト代をつぎ込んで破産するような、クレジットカード切りまくって買っていた時期があったんです。けれど、洋服を作るようになると買わなくなるんですね。服を作るのが楽しい。新作を作って、いい写真を撮って、ということにかなり趣味も入っちゃっている。なので今は無趣味人間ですね。昔はいろいろあったんですけど……。

――昔はどんな趣味が?

映画をいっぱい借りて観たりとか、インテリアもこだわったりとか、もちろん服を買いに行くのが一番そうでしたし。あとはちょっと大学生っぽくクラブとかに遊びに行ってみたり。そういうのもやってはみてたんですけど、今は何も……。

――全部、仕事になっちゃっている?

趣味と仕事が重なっちゃっているのかもしれないですね。おいしいものを食べに行くのが一番、幸せを感じるようになってしまいました。一番お金をかけることは食べることになっていますね。

CHANGE彼女がほしい、という想いはあった

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――お話を聞いていると、たくさん転機があるような気がしますが、一番大きな転機は?

大学に高校から同じ友達がいて、そいつが服好きだったんです。僕はそれまで自分で服を買いに行くこともほとんどなかったんですよね。でも、そいつが渋谷の店とか調べてくれて「買いに行こうぜ」って誘ってくれて、ようやく自分で洋服を選ぶようになりました。自分で服を買うようになった大学1年のころのそれが転機としては一番大きいのかな。なのでその友達との出会いですかね。そいつがいなければそもそも服を好きになっていないと思うので。

ただ、僕は好きになっちゃったらのめり込むタイプなんですよ。気づいたらそいつより洋服が詳しくなってしまいました。意味わからないくらい高い洋服を買ったりして。「おまえ、そんなの買ってるの!?」と言われてしまい。それから就職もしないでいきなり「文化服装学院に行くわ」という始末なので……その後は流れに身を任せてという感じです(笑)。

――ファッションの世界に入る、服が好きになるところが一番で大きかったわけですね。

自分を着飾ることの楽しさを覚えたのは大きかったかもしれないですね。

――でも、慶応ボーイなんだからモテたでしょう?

それは本当に全然です(笑)。やっぱりいるんです。モテそうな部類とダメな部類っていうのが。僕は完全にダメな部類だったので……。

――モテたいというのはなかったんですか?

そりゃありましたね。彼女もずっといなかったので、大学1年生のころから「彼女欲しい」という想いはかなりありました。それでファッションと出会って、眉毛を切るとか、そういう自分の根本的なところから変わっていきました。自分の見栄えを考えるようになりましたね。それまでそういうことはぜんぜん気にしたことなかったんです。

でも最初はファッションもモテたいというレベルだったのが、もう熱量が変わっちゃって。モテるファッションじゃなくて、自分がかっこいいファッションを追求していくようになりました。モテ線なんて通り越してしまってスカート履いたり。ぶっちゃけそんなん全然モテないじゃないですか(笑)。なんかすぐにほどよいところで止まれないんですよね。。

ただ何にしてもモテないというのはやはり原動力だと思います。ずっとそうです。僕がある程度有名になって活躍できるようになったら学生時代に好きだった女の子が少しは見てくれるかな? とか(笑)。
なんかそういう卑屈で女々しい気持ち悪いものが根本的な頑張る理由にはありますね。

――松井諒祐さんのTwitterには、「大人に向けたセーラー服は僕が学生時代できなかった制服姿の女の子とのデートを実現するために作ったんです」とありますが…。

それは実現できてないです(笑)。

SENSE引き算が大切

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――ファッションでは特にセンスが求められるじゃないですか。ご自身にとってファッションにおけるセンスとは?

これはファッションデザイナーのココ・シャネルも言っていることですけど、ファッションは引き算だと思っています。

たとえば1つ見せたいものがあったとしたら、それだけを見せることに集中する。
どうしても、足し過ぎちゃう人が多いと思うんです。足りないところと足し過ぎのところの線引をぎりぎりのところで考える。「やっちゃえ!」と思いたくなるところをあえて踏み込まない。「売れる服」に大切なものは、そこだと僕は思ってます。

もちろん売れることがすべてではないですし、やりすぎちゃうことが大事なこともあります。ブランディングとして、コレクションのショウなどでやりすぎることで成功しているブランドもかなり多いですし、新しいものを追求していく上で大切な取り組みだとも思います。でもそういった服に対して一般的な人からすれば正直、「よくわからない」という意見が大半だと思っています。

なので、僕は一歩踏み込まないで伝えることを大切にデザインしています。全て伝えることが良いか悪いかその論議は置いといて、僕はそういうスタンスです。

これはとある打ち合わせで聞いた話なんですが、ある生花の大会で出場者はみんな頑張って花を生けていくなか、1人だけ花を1本しか持ってこずに、鉢の底をバーナーであぶってあぶり続けて最終的に穴を開ける。その空いた穴に花を1本だけ差して優勝するという人がいたそうなんです。この話を聞いたとき「すげえかっこいい」と思いました。固定概念をもろにぶち壊しているわけじゃないですか。みんな頑張ってるなか、やってることはぜんぜん頑張ってないのに、ただ鉢を焼いて穴開けて差すだけ。その発想だけで全てを持って行っちゃう。

あとこれも同じ打ち合わせで聞いたんですが、トイレの便器にサインだけしてそれをすごい価格で売るという人がいたらしいです。そこには「おまえらが好きなのは絵じゃなくて、誰が描いたかというサインだろう」というメッセージが込められてるらしくて。こういういかに鋭く頑張らないか、引き算するかで勝負できるのはすごい憧れます。

身近な例だと「安心してください、穿いてますよ」のとにかく明るい安村さん。あの人も本当に引き算ですよね。やっていることは少し肉付きよければ誰もができることじゃないですか。ただ穿いているものを最小限に見えなくするだけ。それだけであそこまで面白いインパクトのある芸になっている。あの芸もすごいセンスだなと思っています。

僕の「大人に向けたセーラー服」も何かそういう発想なんですよね。頑張ってない。いかに削ぎ落とすか、いかにテーマだけを残すか、という……そこを追求できるのが個人的にはセンスなのかなと思います。

――仕事ってどうしても足していっちゃう。いくらでも足せる。イラストレーターや絵を描く人に「どこで筆を止めますか?」と聞くと「締め切りでしかたなく」とおっしゃるんですね。ライターもいくらでも直せちゃうし、足し算したくなっちゃうんです。洋服でもそういうところあるわけなんですね?

あると思います。僕は逆にどこまでやらないかがセンスだと思います。

あとはいかに凡人であるか、普通であるかですね。普通に対して敏感であることは、その人のセンスだなと思います。普通や共感を形にできる人ってすごいと思うんですよ。誰もが感じているけど形にできないことって世の中多いじゃないですか。だからアーティストや歌手の方が普通を可視化するのはすごいと思いますね。

僕の「大人に向けたセーラー服」もそんな「ああやられた!」と思わせるようなことを作りたかったんです。「大人に向けたセーラー服」って誰もが思いつくようなことじゃないですか。そんな特殊な技術も使っていないし、真似しようとすればできる。だけど、今までなかったんです。あっても余計なラインが入っちゃったりしてどうも引ききれていないものが多いんです。

引き算というわりには、ごちゃごちゃとしゃべっちゃいましたけど(笑)。
そういうところかなと思います。

――今後の展開としてはどんなことを考えているのですか?

2016-17AWコレクションでは新しい一面を見せていけたらな、というのはあります。あとは店舗を持つことと他には極秘でもう1個ブランドを作れないかな……とは思っています。それはha | za | maで絶対にやらないことをやるためです。やらなさそうに思われてることほど、やると面白いと思っているので。

――センスってビジネスにもセンスが必要だと思うのですが。

僕は「売ること」にはこだわっていますね。

――クリエイターがビジネスを考えたらダメだという話がよくありますよね。クリエイター側からするといやらしいことなんだろうけど、きちんと売ること、ビジネスをするという視点についてはいかがですか?

「売れなくてもいい」というのは一見スマートに聞こえるんですけど、売れなくてもいいのだったら何のためにやっているのか正直よくわからないですよね。実は全然スマートじゃない。売れるからこそ次に向けての資金ができて、よりよい新作にも繋がるわけですから。資金のゆとりがないと考える時間もなくなる。これは悪循環だと思います。なので僕はちゃんと「売る」ということにはこだわっていますね。ちょっといやらしいくらいに。売上を毎回立てることは常に考えています。

――今のところ計画的に進んでいる?

今のところの流れは順調に来ているのかな、と思います。

――まだ会社組織にはされないのですか?

2016年度中にしたいと思っています。相談はしているところです。

――ビジネスセンスの話になると顔が経営者の顔になっている。いいですね(笑)。

もともと商学部なので、お洋服のデザインはもちろんのことですが裏では経営的なこともちゃんと考えていますよ(笑)領収書とかも思いのほか綺麗に整理してたりします。

(2016/05/10 大橋博之)

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プロフィール
1989年1月10日生まれ。
2011年3月 慶應義塾大学 商学部卒業。
2013年3月 文化服装学院Ⅱ部服装科卒業。
いくつかのファッションショー、展示会を経て2013年より自身のブランド「Matsui Ryosuke」を本格始動させる。
その後、ha | za | maを2014年に立ち上げる。
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