乗り越えられないと思っていた壁は、意外と低かった
エッセイストの紫原明子さんに話を聞いた
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乗り越えられないと思っていた壁は、意外と低かった
エッセイストの紫原明子さんに話を聞いた
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JOB肩書をつけにくい仕事

──さまざまな仕事をされている紫原明子さんですが、いつも肩書はなんと名乗っているのですか?

いまはエッセイストを名乗らせてもらってます。前までは企業とユーザーのコミュニケーション支援や、webメディアのコンサルティングも手掛けていましたが、最近はそういう仕事はやらなくなったので。エッセイを書く以外の仕事は肩書がつけにくい仕事になっています。たとえば、スマートニュースでやっていることの一つはNPO支援のお手伝いですし……。

──NPO支援のお手伝いとは?

SmartNews ATLAS Program 2』というものです。応募があったNPOから選定させていただき、スマートニュースが1000万円分の広告枠を提供し、PRに役立ていただく、というプログラムです。2回目になるのですが、2016年のテーマが「子どもが平等に夢見れる社会を残そう」というものです。私がテーマとして取り組んできたことと近かったので、「ぜひ、やりたい!」と私からお願いして、週に1、2日ほどのペースで運営のお手伝いをさせていただいています。

──執筆のお仕事についても教えてください。

webでの連載が3本あります。週一が1本、月一が1本、2週間ごとに1本、です。ただ、自著である『家族無計画』と『りこんのこども』を出させていただいてから忙しくなってしまって、2週間に1本の連載はお休みさせていただいている状態です。あと、私が関心あるテーマでのインタビュー取材や単発の寄稿の仕事が月に3、4本、不定期に入ってきます。執筆の量は一定ではありませんが、一週間に1~2本は原稿を書いているようなペースですね。あと、取材をしていただくことも多いですし、すぐには仕事にならない打ち合わせとか、困った人の相談に乗る(笑) みたいなことも多いです。

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──3冊目のご本の予定はありますか?

いろんな出版社さんから声をかけていただいているのですが、夫婦と家族というテーマはもう、私の関心は全部出しきった感じがするので……。本を一冊書けるほどの深い関心が持てるテーマを、いろいろと探しているところです。

LIFE空虚な気持ちを引きずらせない

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──紫原さんといえばシングルマザーとしても有名ですが、お子さんとはどんな生活をされているのですか?

中3の長男と小5の長女がいます。子どもは塾に行っているので、私の帰宅が遅くなるとすれ違うこともあります。だから、平日にみんなで一緒にご飯を食べる、ということは週に1、2回ですね。基本的には3人とも好き勝手にやっている感じです。長男は自分の部屋でYouTubeを見たり音楽を聴いたり。長女は歴史の本やマンガを読んだり。でも、私が気をつけているのは“私がいつもリビングに居る”ということです。自分の部屋にいる子どもたちが、お水を飲むためなどで、ふらりとリビングに降りてきたときなどは、ついでに話をしたりしています。

──お子さんとコミュニケーションを大切にしている。

私の部屋もあるんですけど、そこは寝るときにしか使わないようにしています。子どもには「コミュニケーションは取っていた」という事実をまず、残してやらなければと思っていて。子供たちが大きくなって、「お母さんは忙しくて相手してくれなかった」という被害妄想を膨らませる暇もないほど、しっかり刻もうと(笑) シングルマザーの子育ては難しいけれど、ひとつだけ、こうしたら正解だなと思ったことは、子どもが大人になって自分の過去を振り返ったとき、空虚な気持ちにならないことが一番、大事だということでした。淋しかったとかは思うかもしれないけれど、大人になっても空虚な気持ちを引きずらせないようにはさせたいと気をつけています。

そのために何をしたいらいいかと考えるのですが、家にいてずっと接していられるお母さんではないからこそ、接する一回々にインパクトを持たせられるようにはしたいと思っています。それが月曜にできなかったら火曜にリカバリーするとか。毎日でなくても少し長期的なスパンで帳尻が合うように。子どもとのコミュニケーションをなるべく濃密に、私が理想とする濃度に近づける努力はしています。

──思い出がない、というのが親子ともに一番、淋しいですからね。

うちの子たちはカラオケが好きで、リビングでいつもカラオケをしているんですよ。あと、みんな冗談を言い合うんです。いろんなことが笑いに昇華できるような空気は維持したいと思っています。私が疲れていてムリなときは「ムリ」といいますが、そんなときに「ムリ」といえるように、疲れていないときにストックを作っておく感じですね。

LIKEエッセイは生き方の参考

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──仕事と子育てでタイヘンだと思いますが、趣味のようなものはあるのですか?

本を読むのは好きですね。あと散歩。それから日帰りでひとり旅をよくします。ちょっと車を飛ばしたり電車に乗って郊外にいくんです。もちろん、子どもが帰ってくる前に家に戻るので、本当に近場ですね。この間は、西多摩郡の檜原村に行って山に登ってきました。『熊が出る』と看板が出ていたけど、熊よけの鈴は持っていなかったのでiPhoneでチャイムを流しながら登っていました(笑) そういう、自分のためになにか特別なことをしている時間を作る、というのは好きですね。

──その時間は、仕事のため? それとも仕事から切り離すため?

仕事と切り離すためですね。切り離すけれど、長いスパンでは仕事に還元されるとは思いますけど。いろんな役割に疲れちゃうことがあって、お母さんとか、エッセイストとか、ライターとか……。そんなときにひとりで遠くに行くと、“個”になれるじゃないですか。そういう時間にチャージできるような気がするんです。

──本はどのようなジャンルのものを読まれるのですか?

読書が趣味ですといえるほど、たくさんはなくて。こういう仕事をしいてる割には少なくて恥ずかしいんですが、いろんなジャンルのものを読みます。テクノロジーに関する本から小説まで。なかでも昔のエッセイは好きですね。松谷みよ子さんとか、工藤直子さん、武田百合子さんなど。webのコラムだと即時性の高い解決策ものが多いですが、「こういう姿勢で生きていくのはかっこいいな」と思えるのは年長者の女性が書かれたものなんです。生き方の参考として女性のエッセイを読むことが多いですが、男性の穂村弘さんが書かれたエッセイでは、「この視点で私も書きたかったな」と思ったりしました。どこからものを見るのか? という目線って見失いがちじゃないですか。本当は私、ふざけたやつなのに気づいたらシリアスなモノばかり書いていた、といったことに気づかされて。それは性別やエッセイに限らず、いろんな読み物で視点の角度は再発見しますね。

CHANGE人生を変えるのは人

──転機は離婚を経験したことになるでしょうか?

離婚も大きな転機でしたが、それより離婚する前に仕事を探すことができたことが大きな転機になりましたね。私は、高校を卒業してすぐに結婚して専業主婦になったので、就職した経験がなかった。だから、自分が社会で通用する、という気持ちを持てなかったんです。世の中の人の役に立てることはないと思っていました。けれど、特別なスキルがなくとも個性を活かせば、お給料をもらえたり、会社の利益に貢献できるんだ、と知ったことは自分の壁を乗り越えた大きな出来事でしたね。

──壁だと思われていたわけですね?

壁でしたね。乗り越えようとしていなかった壁。ただ想像で、すごく大きくて乗り越えるのはムリだと思い込んでいました。でも、実は意外と低かった。それを乗り越えられたのは大きかったですね。

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──『家族無計画』では就職のために、ホームパーティーを催したとありました。

みんなから「資格を取ろうとか、学校に行こう、じゃなくて、なんでパーティーなんですか?」といわれるんですけど、そういう発想がなかったというのもありますし、すぐに収入を得たかったので、のんびりしている時間がなかったということもありました。私の人生は、元夫と結婚してそれによって思わぬ方向に転がっていったという経験があったので、結局、人の人生を変えるのって人との出逢いだと思っていたんですね。人が役割を与えてくれたり、手を差し伸べてくれて思わぬ方向に行く、ということに慣れていたというか、それ以外の方法は知らなかったんです。

──人との出逢いを作ったほうが早いと思ったわけですね。

そうですね。そうじゃないと東京で親子3人、生活できるような収入は稼げないだろうと思ったんです。私という人間個性にフォーカスして、そこを買ってくれる人を見つけないと、実家の福岡に帰るしかないと思っていました。

──生き残りをかけた戦略だった。

福岡に両親が居るのでそちらの方が生活はしやすいとは思ったのですが、福岡よりも東京が好きだったんです。結局、パーティーが縁でIT系の非営利団体のお手伝いをするようになって、そこで出会った人の縁で、都内の小さい出版社に就職が決まりました。最初は簡単なお手伝いのような仕事から始まって、そのうちに広報を担当することになって。そこで1年働いてから、フリーランスになりました。

SENSE自他に寛容である

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──紫原さんにとってセンスを磨く方法は?

「かっこいい人と付き合うこと」ですかね。私の周りにはかっこいい人しかいないですね。私は人にすぐ、影響を受ける性格なんですよ。「こうしたほうがいいよ」という直接的なアドバイスには迎合しないんですが。そこは頑固なんで(笑) でも、自分が好きで近づいて行った人にはすぐ影響されます。ただし、あまりにも力の強い人の近くにいると自分が消耗してしまう、ということも学びました(笑) 「この人素敵だな、かっこいいな」と思う人の側に行くことでいい影響を受けるようにしています。そういう人の側にいるためには自分も頑張らないといけないと思いますよね。自分がカッコ悪いとそういう人の側に行けないですからね。

──どういう人が『かっこいい人』でしょうか?

いろいろありますね。共通しているのはみんな、世の中に対して献身的ということ。出し惜しみしていない。利己的じゃない。自他に寛容です。そんな人は大きな受け皿を持っているといえますね。人の優れた感覚や自分にない価値観などを、どんどん取り入れていっている。「自分なんてダサイ」というのは、そのお皿を小さくすること。好奇心を持ち続けて、新しい価値観に積極的であり続けると、センスは古くならずにいつもフレッシュな状態で、いいセンスを持っていられるんじゃないかなと思います。

(2017/02/01 大橋博之)

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プロフィール
1982年、福岡県の生まれ。高校卒業後、起業家の家入一真氏と結婚。後に離婚。
男の子と女の子の子を持つシングルマザー。
著書『家族無計画』(朝日出版社)『りこんのこども』(マガジンハウス)
Twitter:@akitect
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