相手の思考回路に寄り添うことで
生みだす化学反応
設計事務所スタッフ/デザイナー 徳山史典
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相手の思考回路に寄り添うことで
生みだす化学反応
設計事務所スタッフ/デザイナー 徳山史典
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こだわりまくらないと話が進まない

――はじめにお仕事の事についてお聞きしてもよいですか。

建築の設計をしています。アトリエと呼ばれるような小規模な建築設計事務所で働いています。一般的にゼネコンの設計部や大きな組織設計事務所と区別して、個人で事務所を立ち上げて設計活動をしている人のことを建築家と呼ぶんですよ。これは設計の資格保持者を指す建築士とは別の意味なんです。比較的小規模な建築家の事務所をアトリエといって、その名の通り人数が少ないので基本的に1人で1つのプロジェクトを担当していきます。依頼が来てから建物が完成するまで、常にプロジェクトの中心に関われるということは大きなメリットだと思います。所員の多くが将来独立することを前提にしているので。しかも個人個人に専門分野や得意分野があるというというよりは、その時の手の空き具合で様々なジャンルの仕事が任せられるので、これまでに個人住宅といったごく小さなものから数万平米のマスタープランまで多様なプロジェクトに関わらせていただいてきました。

――仕事に対するこだわりなどもお願いします。

アトリエなので基本的にボスを納得させないと進まないんですよ。なので「こだわりは~」とか言う以前にこだわりまくらないと前に進みません(笑)。というのもあって、自分なりのこだわりを出すのもなかなか難しいところです。

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しかしだからと言って「ただやらされている」っていうことでもないんです。ボスを説得するためには言われた通りにするっていうのももちろんありますが、そうでないもの、自分の中で生まれた提案をどういうロジックで説明すれば共感させられるかっていうことも常々考えるようにしています。極論を言えば同じ提案でも、言葉使いや説明の仕方で結果は変わると思っています。「こいつは俺の意図を理解した上で、あえて別の提案をしているんだな」と思わせることが大切。これは所内でのプレゼンはもちろんクライアントの要望と違った提案をする場合なども同じですね。

「なぜ」が一番大事

――では具体的に良い提案をするためにどんなことに注意していますか。

相手の思考回路に寄り添うこと。例えば施主(クライアント)と話していて自分に無い考え方を提示されることがあるじゃないですか。そういう時に自分のデザインのポリシーに合わないからとか思わないで「そういう考え方もあるのか」とそれを捨てない。でも言われたとおりそれをやるのでなくて、その人がなぜそうしたいのか考える。「そうしたい」っていうところよりも「なぜ」の方が重要なんです。最悪「そうしたい」というところは無視しても、「なぜ」をクリアできれば結果は違っても良いと思っています。「普通こうするところをこう解決しました」っていうのが面白いデザインを生むと思うので。表面的にでは無くその思考回路自体を捉えることを心がけていますね。

――将来的には独立も視野に入れているとか。

そうですね。少しずつ建築の仕事がわかるようになってきて、最近はなるべく自分の時間で建築以外の仕事をやるようにしています。具体的にはミュージックビデオ等の短めの映像制作の仕事やグラフィックデザインです。独立後はできたら建築だけじゃなくてグラフィックとか映像など色々な物を作っていきたいと思っています。「そんなに甘くねえよ」っていう目線をなんとかふりきって、どんな媒体でも自分のデザインをアウトプットできたらいいなと思います。

やりたいから勇気を持って色々やる

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――では、そんな徳山さんの創作の元になるような刺激はどんなところからインプットするのか教えてください。

例えばミュージシャンなら星野源さんの仕事には刺激を受けます。彼は音楽家、俳優、文筆家と多様なアウトプットをされていて、しかもそれがなにかひとつ売れてからあちこち手を伸ばした感じでなく、最初から「どっちもやりたいからやる」なところ。でしゃばりとかどっちつかずだって言われてしまいそうなことでも勇気を持って、あるいはそうならないよう計算高く取り組む姿勢に共感します。純粋に音楽で言うと、ジャズなども少しかじっていて大学時代はサークルでよくセッションをしていました。さっき話した人の思考回路に寄り添うという意味でジャズのセッションは近いものがあると思います。コード進行という規制の上で、他のパートに同調したり、わかった上で無視したりとか。昔のパット・マルティーノ(ギタリスト)とか好きですね。アドリブパートで繰り返しのフレーズをよく使うんですがそれがしつこいところ。真似しやすいからなんですけど(笑)。もしかしたら自分への枷の様なものにしてるのかもしれませんけど、好きです。

――徳山さんは「枷や型にあえて自分をはめて何をつくるのか」という事に興味があるのかもしれないですね。

何をデザインするにしてもそのデザインの中での「ルール作り」は必ずしています。100%守りきれるかどうかは別として。それをせずにやりたい放題デザインした感覚的に良いものができても、相手を納得させるような説明は僕にはまず無理だと思っているんです。

日常に潜んでいる建築やデザイン

――他にプライベートで積極的にチェックしているものはありますか。

アニメは見ますね。作品自体もですが、作り方とかに興味があるんです。マンガとアニメの関係性って狭義のファインアートと建築のそれによく似ていると思うんですよ。アート/マンガを作っている時はひとりあるいはごく少数の人間関係の中で完結しているんだけど、それが建築/アニメになった瞬間にいきなり関わる人数が増えて、それとコミュニケーションしながら色々な規制<法規、要望、予算>などなどの制限の中で創り上げなきゃいけない。最初スケッチ(絵コンテ)から始まって、それを書いた人が最後まで全て面倒見るところとかも親和性がある気がします。でも1人の思い通りに行くわけじゃないし、それぞれの主張や都合が重なり合って最終的にいいものやそうでないものができるっていうフローになっているから観ていて楽しいですね。最近見たもので面白かったのは「楽園追放」って作品。セルライク3Dって言って「トイ・ストーリー」みたいな3Dで作った映像を手で描いた2Dに戻すっていう作業をしているんですよ。その画が3Dとは思えないほどいきいきしてて。こういう方向にどんどん技術がドライブしていけば、職人としてのアニメーターの需要はなくならないにしても減っていくのかな。建築の世界でも3Dプリンターが巨大化して建物をプリントするようになってきていますが、同じような流れになっていくかもしれません。

――ちなみに今つけている時計は?

イッセイミヤケの「TWELVE」です。長いこと使ってベルトがボロボロになったのでいまは自作のビニル製のベルトをしています。文字盤のないシンプルなものを探していたのですが、かといって全くないとパッと見た時に時刻に判断が遅れますよね。文字盤はないけれどガラスの形が12角形にカットされていたこのデザインを見た時まさに「俺の意図を理解した上で、別の提案をされた」と思いました(笑)。

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服やなにかのプロダクトでも昔は変な服とか奇抜なものが好きだったんですが、段々とこの時計ように独自の切り口で合理性を獲得しているものに惹かれるようになりました。例えばこれも長らく使っていますがLacieのまんま鍵の形したUSBメモリです。これは普段肌身離さずUSBを持ち歩こうなんて思いたくもありませんが(笑)、鍵の形になっているので自然とキーホルダーにつけてしまい強制的に持ち歩かされるんです。でもそれによって何度も助けられましたね。

人の話に対する相槌が上手な人はセンスが良い

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――では、最後に徳山さんにとっての「センスがいい人」とはどんな人でしょうか。

センスがいい人というのは、優れた先天的感覚というより、豊富な知識を相手に合わせてツマミを微調整するようにアウトプットできる能力を持った人ですかね。人の話を良く聞いてそれに対する相槌が上手い人。話を横で聞いている時にセンスのいい相槌のおかげでその話し手の真の意図を理解できることもよくあるんです。当然そういう人ほど相手を上手に否定・説得できるので、結果的にプロジェクトをいい方向に導いていけるんだと思います。

(小池)

プロフィール
1987年山梨県生まれ。2010年横浜国立大学卒業、2012年東京藝術大学大学院修士課程修了。2012年-吉村靖孝建築設計事務所勤務。建築設計業務の傍ら、映像・グラフィック・Web・音楽・様々な媒体にてデザインのアウトプットを試みる。担当した主な仕事は、ミュージックビデオ監督:She Got High At Night / The Echo Dek(https://youtu.be/TX1c4LiRhCM)Webデザイン+サイト制作:甲州最前線(http://koshusaizensen.com)など。

http://toqulr.tumblr.com
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