写真家として、今までにはない仕事に挑戦していく。
写真家の保井崇志さんに話を聞いた。
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写真家として、今までにはない仕事に挑戦していく。
写真家の保井崇志さんに話を聞いた。
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JOB「それを常識だとは思っていない人」に届ける

──保井崇志さんは写真家ですか? カメラマンですか?

写真家と言うときもありますし、カメラマンと言うときもあります。でも、最近は写真家ということが多くなりましたね。しかし、本当ならフォトグラファーかな。海外では写真を職業としている人のことをフォトグラファーと呼びますよね。だけど、僕は特にこだわりはないです。

──どう呼ばれてもいいということでしょうか?

そうですね。とはいえ、カメラマンと呼ばれるよりもフォトグラファーと呼ばれる方が好きです。クライアントはシャッターを押すだけの人ではなく、僕だからこそできるなんらかの違った表現に対して期待してくれていると思うので、そういう意味で言うと、写真家なのかなとは思います。

──ただ写真を撮るだけでなく、クリエイターでいたいということですね。
当然、ある程度の写真の技術があることは前提にして、それに独自の何かを上乗せしないと、写真家としては生き残れないと思っています。自分よりも写真の上手い人はたくさんいるし、今後もたくさん出てくる。その中でも『この人だから!』と思ってもらえるような何かが必要だと思うんです。そのことはその時々で考えています。京都の写真を撮ることにこだわったりとか、2016年から東京に拠点を移したので、東京というロケーションで何ができるだろうかとか、そういったことは常に考えていますね。

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©Takashi Yasui

──保井さんは大阪に住まわれていて、ずっと京都を撮ってらした。その京都の写真が美しくて注目されたわけですが、2016年からは東京に住むことになった。もう、京都は撮らないのですか?

そうですね。京都を撮ることをやりつくしたというか……。もちろん、長年、京都を撮られている写真家はいらっしゃるし、そんな方に比べたら僕はまだまだとは思うんですけど、僕は風景写真を撮っているというよりは、自分の身のまわりを撮っているという感じなんです。自分に近しいものが自然と被写体になっている。
僕には自分の中でステージごとにやるべきことと、できること、というのがあると思っているんです。僕はスタジオで撮るという経験も少ないですし、写真学校で学んだ経験もない。写真を趣味として身の廻りのものを撮り続けてきた結果、ここまで来た。自分の生活に結びついた写真というのは僕の中のベースですね。
なので、京都の次はたとえば、旅をして写真を撮るとか、特別なコンセプトを外に持つことは今のところ考えていないですね。

──なるほど、京都がテーマだったわけではないということですね。

海外の人から見れば日本はまだまだ謎なんですよ。僕は写真をやるにあたって、「海外の人の視点になる」ということをずっとやってきました。なぜ、京都を撮りだしたのかというと、それも海外の人の目線で見て魅力的だったからです。それは東京でも同じです。普段、我々が生活している中で、海外にはないシーンってたくさん見つけられると思うんです。中華そば屋さんにサラリーマンが並んでいるシーンとか。日本人にとっては普通なんだけど、海外の人にはすごく刺さるんです。若干、あざといですけど(笑)。そういう視点でいつも撮っています。

それは、どんなことでも、ビジネスでも大切だと思うんです。自分では常識と思っているものでも、それを常識と思っていない人がいる。そういう人に何かを届ける。というか、自分の常識と格差があるところに何かを届けるということを僕は考えてきました。

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©Takashi Yasui

──2015年に保井さんの京都の写真がメディアですごく取り上げられて、そこから写真家としてブレイクしました。保井さんは写真家になるまでのストーリーが面白いですよね。

自分でも写真家になろうとは思っていませんでしたからね。クリエイティブな仕事とはぜんぜん関係のないところで働いていましたし。写真を始めたのも『自分の好きな趣味があればな』と思ってのことだったんです。もともとブログはやっていたんですね。文章を書くことも好きだったので。文章といっても日記程度ですけど。そのブログに写真を載せられたらな、ということで写真を始めて、情報を発信するということはやっていました。けれど、大きな切っ掛けになったのはInstagramを始めたことですね。Instagramのプラットフォームは全世界なので、日本のことを珍しがってくれる人がすごくたくさんいたんです。そうすると、海外の人に届けたい、喜んでもらいたい、楽しんでもらいたい、みたいな気持ちが強くなって行きました。ただ撮るだけ、というところから届けたい、喜んでもらいたい、楽しんでもらいたい、という視点に変わりましたね。

──カメラはいつくらいから撮っていたんですか?

2010年10月。最初、コンデジを買ったんです。その直後に姪っ子が生まれて。姪っ子を少し本格的に撮ってみたいなと思って一眼レフカメラを買いました。一眼レフカメラですけど、プロ機ではなくて入門機なんです。ちなみに今も若干、入門機(笑)。フジフィルムのちっちゃいカメラを使っています。

──保井さんはInstagramから有名になった。そこからWebメディアを活用されて仕事に結びつけていらっしゃる。保井さんは戦略から入っているわけですね。

戦略というか、2015年の1月にフリーランスフォトグファーとしてやってみようと宣言したんです。宣言したからには考え、行動しないといけない。その前、2014年からInstagramでたくさんフォロワーが増えたこともあり、『この影響力をより大きくできたら面白いな』と思いました。そうすれば『既存のフォトグラファーとは別の形で面白いことができるんじゃないか』と思って。
そこで、戦略じゃないけど、どうやったら実際の仕事になるか、1年間と期限を決めてできることをやってみようと。もともと写真の仕事があってフリーランスになります、じゃなくて、まったくゼロからだったので、写真家としてやって行くには考えるしかなかったんですよ。ウェディングなどの写真の仕事があった状態でスタートしたとしたら、逆に今のようにはなっていないかもしれない。それは、結果的にはよかったと考えるようになりましたね。

2015年1月に宣言したけれど、最初にお金になったのは実は、2015年の8月なんです。Instagramで知り合った友人から来た仕事で、イタリアのオートバイメーカーDucati(ドゥカティ)の新モデル「Scrambler」のワールドワイドキャンペーンに僕がアサインされたんです。それが実質、フォトグラファーとして稼いだ初めての収入。それまでは無収入でした。だからこそ、考えるしかなかったんです。どうしたらいいかと。

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©Takashi Yasui

その間、注力していたのが自分のWebメディアでした。それが『RECO』なんです。『RECO』はInstagramではリーチしないような人にも読んでもらうことを目的としました。こういうことをやっている人がいる、みたいことを皆に知ってもらうというか、営業ツールみたいなものですね。僕には飛び込み営業の経験もないし、そもそも飛び込み営業は既存の仕事に飛び込んで行くのであって、僕がこれからやっていかないといけないのは、今までにない仕事でしたからね。
そのため、インバウンドじゃないですけど、とにかく『RECO』で僕の写真を見てもらうということから始めたんです。それはすごく大きな成果につながりました。2016年から東京に拠点を移した切っ掛けになったクライアントワークのひとつは『RECO』でつながった仕事なんです。

──『RECO』を立ち上げる時も戦略を立てていたんですか?

もともと、Instagramは『ネットでの発信力って面白いな』と思ったところから始まっているんですね。Instagramだとアプリ内だけで完結するものなので、たとえば写真のハウツーとか、写真のロケーションとか、そういったところを知りたいというニーズにはぜんぜん届かないんですよ。InstagramはSEO的にぜんぜん機能しない。だからInstagram以外のWebで大きな柱がいるなと思って『RECO』をローンチしました。

自分の周りをアサインして、フォトグラファーのプラットフォームにしてしまって、京都の記事を書くとか、東京の記事を書くとか、フィルムカメラについて書くとか、僕はちょっと意図してワークショップのことを書いてみたりとか、Adobeのソフトのことを書いてみたりとか。そういったところにいろんな人にひっかかるようなキーワードで『RECO』を作りました。その『RECO』はもちろん、今も継続中でです。

──面白いのはフォトグラファーでありながらIT用語が普通に出てくるところなんですよね。

写真家の人も既存のカメラマンもネットの影響力は無視できないと思うし、僕は逆に先にネットの影響力から入っているので(笑)。もちろん、それなりに本を読んだり、勉強はしましたけどね。

──WebやSNSを上手く活用されているなと思います。
逆にそれしかない。もともとのベースがないですからね。『RECO』がどんどんアクセスが増えてきて、ちょくちょく問い合わせみたいなのが来るようになりました。「ワークショップをやってくれませんか?」ということで、上海にも行きました。クルーズ船の案件で旅行会社からの依頼でした。船内で写真のワークショップをやるというものです。そんなふうに大きな成果としてあがっています。

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個人的にブログ『Tuck Journal』もやっています。それはぜんぜん更新していなかったんです。去年、2015年1月から独立して、夏くらいまでは京都を撮ったりWebライティングの仕事をもらったりしていました。その後、9月頃に僕の写真がすごくバズったんですね。海外のたくさんの新聞社とか、たくさんのメディアで取り上げられました。それから連絡も増えて、「京都で写真を撮ってくれないか」という観光客向けの写真も依頼されました。そういったことでベースの収入みたいものができてきました。
その流れをまとめてみようと思ったんですね。ちょうど、10月が僕の誕生日なのでいいきっかけと思って、誕生日の次の日くらいに1月から10月までの、いろいろと仕事をもらえるようになるまでの流れをぐっとまとめて書いてみました。それを、僕のブログ『Tuck Journal』にアップしたら、それもバズったんです。

そのブログを読んでくださった、超有名なクリエイティブディレクターの方が連絡をくださって、今東京での案件につながっています。じぶんをさらけだす内容を発信することはハードルが高いですが、同時に大きなチャンスにつながることを、身をもって体験しました。

LIKE本を読んで知識や材料を増やす

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©Takashi Yasui

──もともと趣味だった写真を職業にされたわけですが、今の趣味はなんですか?

趣味は本を読むことですね。僕がこれからも写真をずっと続けて行くのかというと、実は自分でもわからないんですよ。もしかしたら今後は違う道に行くかもしれない。これからのことは僕にもわからない。だから、経営者の本やメディア関係の本や、歴史の本を読んだりして、自分の知識とか材料みたいなものは増やしておきたいなという思いがあるんです。ずっと忙しくて、忙しいというか本を読むということの優先順位は低かったんですけど、最近は本を読むようにしています。

──先のことを常に考えて準備しておくということですね。

そうですね。自分の自由になる時間をどこに使うかというと、僕はあまり人付き合いがよくもないので飲みにいったりもしない。だったらその時間をインプットに回したいと思っているんです。

──勉強家なんですね。

メディアというものそのものが今後、もっと個人に寄って行くと思うんです。誰もが自由に発信できるという行為に可能性を感じています。写真はひとつのチャンネルにすぎないのかもしれないと考えているんです。

CHANGE Instagramのフォロワーを増やすのはゲーム感覚。

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©Takashi Yasui

──保井さんの転機といえば、やはりInstagramとの出会いですか?

そうですね。でも、Instagramとの出会いというより、常識の違いというものをInstagramで知ったことですね。その違いの面白さを知ったことで自分になにか、いいことが起こるんじゃないかなと思えたんです。だって、Instagramはまだ、みんなは知らないでしょ。世界ではいろんな人がやっているのに、日本ではやっている人が少ない。

──Instagramがビジネスになるイメージがつかめないんですよね。

ぶっちゃけ、Instagramではビジネスにはならないです。とはいえ、見てくれる人がいるので、「じゃ、この人に頼もう」ということになるかもしれない。履歴書代わりにはなるかもしれない。そんなチャンスがあるかもしれない、と思った僕はそのひとりなんです。事実、僕はInstagramをきっかけに変わったわけですからね。

──保井さんはInstagramで自分が常識と思っているものが、常識ではないと思っている人がいるという面白さを知った。そこから特に海外に向けて、という視点を持った、とのことですが、普通はそんな視点は持たないですよね。

僕がInstagramに投稿した写真に海外の人から反応がもらえた、ということが一番、大きかったですね。「これがクールだ」とか「これが面白い」と教えてもらえたということが。その中には「これが?」と僕が思うような意外なものもありました。日本人にとって普通のもの、桜とか紅葉がキレイというのはわかるじゃないですか。もちろん、それは伸びるんです。けれど、普通の路地だったりとか、そういったものにもコメントなりLikeなりで反応が入ってくるんですよ。その繰り返しで鍛えられましたね。コメントでラリーして、返ってくるやり取りの中で海外に刺さる視点に気付けました。自分で「こうなんじゃないか」というのを発見したわけじゃなくて、流れに乗ったみたいな感じですね。

──SNSを活用してビジネスを展開する人はこれからもどんどん増えていくんだろうなと思っています。

僕は、どんどん増えてくるとは思っていないんですよ。SNSを活用したいとか、SNSを活用することに関心を持つ人の母数は増えるとは思います。増えるけれど、実際に収入を得たり、安定した収入にきっちりつなげられる人というのは、より少なくなって行く。というか、二極化されると思います。なぜなら魅力的なコンテンツを発信できる人、発信し続けられる人は限られるからです。

僕自身は常に危機感じゃないけど、安泰というのはないと思っています。だから常に新しいことを考えないといけない。今はクライアントワークの契約が2本あるのでそれ以外のことを同時進行で模索しています。メディア運営は引き続きやるとして、たとえば僕の写真のプリントを販売してみるとか。純粋に物を買ってもらうというのは今までなかったんですよ。そんなことにちょっとチャレンジしてみたいですね。今の僕の持つ影響力を使ってどれくらいできるかなと。だからもちろん、Instagramを使うことになるし、自分のWebサイトやネット上の発信力、影響力を使うことになる。そのためには枠組みじゃないけど、ストーリーみたいなものを考えないといけない。というか考えています。

もともと、僕は大阪に住んでいて、生まれてからずっと大阪だったんですよ。いろんなところに住みたいとか、いろんなところに移動したいとか、そう思うタイプでは僕はない。それが、ひとつのチャレンジとして東京に住む環境を作った。それと同じように自分で物を売るとか、自分の価値を買ってもらうとか、そういうチャレンジも必要かなとは思いますね。いままでは海外の人に「日本のフォトグラファーと京都を巡る体験」を提供することをやってきた。体験を売る。文章を売る。もちろんクライアントワークもします。いろいろやってきた次は新しく何をしようかなと、そういうことです。つまり、収入への入口を複数持つということですね。

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©Takashi Yasui

──お話を伺っていると起業家のようです。保井さんは起業したいと思っていたのですか?

ぜんぜんなかったですね。Instagramのフォロワーを増やして行くというのもゲーム感覚だったんですよ。「それをクリアしたら次はどうしょう」と考える。じゃないと面白くなくなってきちゃうでしょ。ルーチンになって。もともと僕がInstagramが面白いなと思ったのは、クライアントワークじゃないのに、投稿している人がみんなそれぞれ、いろんなコンセプトを持って発信していることなんです。街中でバレリーナを撮ってみたりとか、同じ構図で空と建物だけを撮っているとか。誰に頼まれたわけでもなく、自分の楽しみだけでやっている。そういう雰囲気にすごく感動して、『こういうのはいいな』と思ったのが原体験なんです。自分自身も『これをやったら次は何かできるかな』と、そういうゲーム感覚でやっていました。それが収入になった今、時間などのリソースが増えるじゃないですか。だったらそのできた時間を次はどこにどうしようかなと考えているんです。

SENSEどこにアンテナを張るか? が大切

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──保井さんにとってセンスのいい人とは?

今一緒に仕事をさせていただいているクリエイティブディレクターの方はアンテナがすごいんですよ。「それだったらこういう事例があって、こういうことができる」って、すっごく、たくさんアイデアが出て来るんです。しかも、モノを知っている、インプットしている、だけじゃなくて、どのアイディアも効率がいいんです。考えられないような引き出しがすごくある。こういった方を見ていると「どこにアンテナを張るか?」が大切だと思い知らされます。

どんなふうにアンテナを張って、どんなふうにインプットして、で、結果、どうアウトプットしてくか? 目指す結果はアウトプットなんですが、アウトプットにいたるためのアンテナの張り方がセンスだと思います。

──常にアンテナを張っておく、というのは保井さんがいつも先のことを考えているからのような気がします。

僕にはいつも「これから先、こうなったらいいな」という想いがあるんです。それが100点でなくとも70点、80点とクリアできたら、それって面白いじゃないですか。僕自身が先のことを考えるのが楽しいんです。じゃないと、「フリーでやります」とは宣言していないと思うんです。

(2016/06/07 大橋博之)

プロフィール
2010年から本格的に写真に取組みはじめ、Instagramとの出会いから国内外のフォトグラファーと様々な交流を重ねる。2015年1月 フリーランスフォトグラファーとして活動を開始。Instagramを通じての企業案件やアーティストの撮影など、新しいフォトグラファー像を追求している。写真をもっと楽しくするメディア「RECO」運営。
【RECO】http://reco-photo.com/
【「The Whole Earth Catalog」のオフィシャルフォトグラファー】https://www.instagram.com/thewholeearthcatalog/
【「Haiku Masters」のオフィシャルフォトグラファー】http://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/tv/haiku_masters/
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