写真家としてのこだわり。
日本の写真家、青山裕企さんに話を聞いた。 
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写真家としてのこだわり。
日本の写真家、青山裕企さんに話を聞いた。 
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JOB死ぬまで写真家でいる、ということ

──青山裕企さんの名刺には「写真家」と肩書がありますね。

写真家と名乗っているのにはこだわりがあります。私の活動の中心は作品制作なんです。 写真で撮るものは大きくわけて2つしかない。仕事として撮る写真と、作品として撮る写真。私は両方をやっているんですけど、軸足は作品として撮る写真の方に置いています。

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私の作品として撮る写真のテーマは2つしかなくて、ひとつが『ソラリーマン』というサラリーマンが飛んでいる写真。もうひとつが『スクールガール・コンプレックス』という顔の写っていない女子学生の作品。これらの作品があるから仕事として撮る写真にもつながっているんです。 作品として撮る写真を主体としているので「写真家」と名乗るのが自然だと思っています。

──写真家として独立されて丁度、今年で10年だとか。

10年たってようやく「写真家」と名乗れる、みたいな感じですね。個人的には今が、スタートラインという思いです。 写真家になろうと決めたのが2002年。その時、「写真を死ぬまでやろう」と決めたんです。どれくらいの期間、写真家をやるかというと、会社員ではないので退職して辞める、ということはない。死ぬまでなんです。今私は37歳。健康体でいられたら死ぬまでまだ40年、50年ある。そのうちの10年なんて、まだこれから。ようやく10年で土台が出来たところ。やれることも増えたので「ここから10年が勝負」と思っています。

──写真家として10年たち、今後10年はどうあろうとお考えですか?

写真家として活動をはじめてからの10年でこれだけカメラが変わった。このスピードはもっと速くなると思います。動画が主流になると写真はどうなるのか?ということもあります。写真業界は決して明るくはないと思っています。 まず、写真は「誰でも撮れる」がもっと進んでいくでしょうね。ピントを後でコントロールできるカメラも出てきました。動画から切り出して写真にすることもファッション業界では普通にしている。じゃ、何をするのが写真家なのか?ということになると、今まで活動してきた作品を撮ること。自分の中で「これは撮らざるをえない」ものを撮ることを突き進めていくしかない。その時、10年やってきていることは確実にアドバンテージになると思っているんです。そうじゃない人が淘汰されていくかもしれない。

──続けることが大切だと。

そうですね。生き残れるかどうかは、周りが決めることでもある。写真で食えなくなったら生き残れなかったということになるかもしれない。けれど、続ける続けないは自分次第。 私はお笑いが好きでいろんな芸人さんの漫才を見たり、テレビを見たりするんです。一発屋といわれている芸人さんって、数年ぶりに見てもあいかわらず同じ芸をやっているじゃないですか。そういう芸人さんと、1発目が当たったら次の2発目、3発目と行かなきゃと思っている芸人さんもいる。私は相変わらず同じ芸をする、あの安定感がすごく好きなんです。 写真で同じことを続ける。自分で自分を模倣しはじめるとどんどん縮小して行く。だから少しづつ変化はするだろうけれど、10年、20年たって、たとえ、今より周りから忘れられた存在になったとしても続けていたい。「まだサラリーマン飛ばしているんだ」「10年前にスクールガール・コンプレックスって流行ったよね。まだやってんの?」と言われて「まだやってんだよね~~」と答えるのが理想。そこで食えてればもっといいですね。

──青山さんの著書『私は写真の楽しさを全力で伝えたい!』の中で次のテーマも考えなきゃとありましたが……。

そういう焦りがあった時期はありましたね。もう今は焦りはないです。3つ目のテーマを、と思っていたんですが、それを考えているうちはダメだなと解ってきて。 この後10年で3つ目のテーマが出てくるのなら出てくる。自分に表現の源泉があるかどうか。ないとこでいくら掘ってもない。ないからといってねつ造して、温かいお湯を注いで「温泉です」と言ってもダメですからね。

──『さしこ(指原莉乃フォトブック)』など沢山の仕事をされていますね。

今、若い女性の撮影が8~9割あります。それと、乃木坂46の生駒里奈さんの写真集を作っています。生駒里奈さんはデビューしたころから撮りたいと一目惚れしました。何度か撮影する機会があって、「写真集撮りたい」とずっと言っていたら運よく撮れることになりました。一番、やりたい仕事を今、やっている感じですね。あと、私は女の子だけ撮りたい人ではなくて男も撮りたいんです。だから、今月、男子高校生の写真集も出す予定(12/25発売 写真集『青春ボーイズ・ライフ』)です。

LIFEギャラリーの運営と奥さんの存在

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──ギャラリーの運営も始められました。

ギャラリーをやりたいというのは、かなり前から考えていました。作品を発表する場所が欲しいというのは。もちろん展示会もするんですけど、ギャラリー運営もやりたかった。それがなぜ、今年から始めたかというと、運命的に最高なギャラリーの物件にたまたま出会ったからなんです。

──と、言うと?

「小さくてもいいからスタジオが欲しいな」と思って物件を探していたら、たまたまギャラリーがあって、借りようと思って即決したんです。 ギャラリーの運営はビジネスではないです。儲けは考えてはいない。ただ、賃料の回収はしていかないと借金が膨らんでいくので、そこは考えないといけない。

──自分のギャラリーが欲しかったわけですね。

そうですね。旅行に行って、家族写真のようなものを撮っても個展は出来るという環境は欲しかったですね。

──もう、オープンしていくつかの展示はスタートしていますね。

当初のオープンの日程が8月から10月にずれたので、実はまだオープンから一か月半しかたっていないんです。最初、私が展示して。続いてアシスタントなどが展示しています。

──今後もいろんなものを展示して行く予定だとか。

そうですね。私がキュレーションや企画をして。自分の写真ではなくともいろんな展覧会を企画してやろう、と思っています。

──貸しギャラリーではなくて企画中心のギャラリーということですね。

レンタルギャラリーとして運営しようという発想は、今はないですね。貸すにしても写真の講師もしているので、生徒に安く提供して展示をしてもらうという考え方はあります。

──写真専門のギャラリーになるのですか?

写真を中心として、幅広く、ですね。たとえば写真と絵画のコラボレーションなどもあるかもしれない。私が「これいいな」と思ったら、ぜんぜん関係ないジャンルのものもやると思います。ただ、企画の半分以上、7~8割は写真の展示にはなると思いますね。

──持ち出しもあるんでしょうね。

年内は実験的に考えています。今はどれくらい人が来るか?とか、費用対効果とか、いろいろ調査しているところです。来年はプラマイゼロ、持ち出しなしでやっていけるようにしたいですね。それがうまく行ったら、次の年からはプラスに転じていく、という発想でやっています。

──青山さんには奥様の存在も大きいと聞きました。

そうですね。妻といる時間はすごく大事にしていますね。妻は面白いですよ。妻を見ているのも飽きない。妻とご飯食べているのも呑んでいるのも好きですね。

──それは仕事と切り離せるから?

そこは完全に切り離していますね。妻に一眼レフカメラを向けることはまずありませんね。

──奥様といるときは仕事を忘れられる。

完全に忘れますね。妻も働いているんですけど、写真業界とはまったく関係のない、普通の会社員。私は家では写真の話はぜんぜんしないんですよ。

──奥様が癒しなわけですね。

家庭を崩壊してでも写真にのめり込む、アーティステックな方が写真家としてはいいかもしれないですけどね(笑)。それに比べると極めて健康的だと思います。ちゃんと家族との時間を取りながら、奥さんの仕事の愚痴を聞く(笑)。

LIKE趣味は写真家だけど写真

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──青山さんの趣味は?

実は趣味はないんですよ(笑)。写真がもともと趣味。その趣味を仕事にしたので……。 写真は今でも趣味だと思っているんですけど、写真家が「写真が趣味です」とはさすがに言えない(笑)。さすがにそれはおかしいですよね。

──「趣味は写真です」というのもいいですけどね(笑)。

ちょっとかっこつけすぎているように聞こえませんか? でも、実際、そうなんですよ。今まで10年やってて、趣味を作らなきゃ、と思っていた時代もありました。毎年、「今年こそは趣味を作ろう」と思っていたんですけど、ないんですよね。 日常も全部、写真に還元されていく感じがありますね。街中歩いていても「この壁使えるな」とか「ここの光いいな、この時間、このビルに反射する光がいいな」とかね。全部、写真になっちゃう。それが辛いと感じていた時期も実はあったんです。写真から離れられないと。

──いつもカメラを持ち歩いていますか。

作品や仕事で撮る時以外は一眼レフとかは持っていないです。ただ、小さいカメラはいつも持ち歩いています。 限りなく適当に撮るコンパクトカメラですけどね。絞りなどのコントロールもなし。撮りたいと思ったらぱっとと撮れる、という感覚のコンデジですね。

──撮りたいときに撮れないのがいやだからですか。

そうですね。スマホがコンデジの代わりになる時代になって来たけど、私の気持ちの中ではスマホじゃなくてコンデジで撮った方が生理的にいい。それは写真がまだ趣味だからなんじゃないかなと思うんです。カメラが好きなんですよね。

──写真というよりカメラが好きなんですね。

カメラは好きですね。仕事の話に戻るんですけど、仕事で使うカメラでもこだわりはないんですよ。よく「カメラはニコンですか?キャノンですか?」って聞かれるんですけど、特定のメーカーのこだわりはないです。今でもペンタックスとキャノンとニコンとソニーとシグマとオリンパスを使っています。撮影ではその中からどれを使うかを選ぶ。だいたい6つくらいのメーカー、それぞれのカメラを持っていて、それぞれでレンズを持っているんです。

──お金がかかりそうですね。

私はひとつのカメラに対してレンズは1~2本しかないのですね(笑)。全部、単焦点。ズームは使わない。だから大丈夫なんです(笑)。

カメラを使い分ける楽しさはありますね。カメラは好きですよ。だから写真も趣味ですね。

他の趣味、なんかないですかね(笑)。

SENCEアシスタントに求めるセンス

──青山さんにとってセンスのいい人とは?

アシスタントは今、メインで動いているのは3人。あと、スポットで週一くらいでお手伝いをしてくれる人が6~7人くらいはいるんですけど、そのアシスタントに対して「センス」という言葉をよく使っています。 それは「写真を撮るときにセンスを磨け」とか、「こう撮ればセンスが磨かれる」とかじゃなくて「ちょっとコンビニでお菓子でも買ってきて」と言って「何を買ってくればいいですか?」と聞かれたときに「センスで」と答えるんです。日常の些細な、お使いでどのお菓子を選ぶ、何を選び、何を選ばないと考える、そこにセンスを磨く秘訣がある。そういったところの積み重ねでしかセンスは磨かれないと思っているんです。

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9.11のテロがあった時、私はバックパッカーをしていて、たまたまスペインにいたんです。マドリッドでピカソのゲルニカを見て心にすごい影響を与えられました。そんな美術鑑賞などによって磨かれるセンスもある。けれど、それよりも大事なのはコンビニで何か買ってくる時のセンス。そこで私はアシスタントのセンスを見ているんです。 何も考えずに買ってきてあまりセンスを感じない、そんなところにセンスなんていらないだろう、ともし思っていたら、そのアシスタントは多分、写真もダメと思っているんです。 写真は誰でも撮れる、いつでも撮れる、スマホでも撮れる。しかも撮ったあとでどうにでも加工できる。どうにでも出来るならば、撮るまでがすごく大事。何を撮るかを考えるのは、コンビニでお菓子を選ぶ、そのお菓子にあわせてコーヒーなのかお茶なのか。お菓子と飲み物の組み合わせを考えるのと、写真を撮るのも同じなんです。 女の子を撮る時、正面から撮るのか、横から撮るのか?光をどっちから入れる。背景にどういうものを入れる。全部、組み合わせ。つまりセンスは組み合わせなんです。 写真ではその組み合わせがすごく多い。光、被写体の表情、ポージング、背景の選択、さらに露出、シャッタースピードのコントロール。それは日常的に磨くものなんです。 コンビニの買い物もそうだし、どの道を行く、というのもそう。そういうものこそ大事かなと思っていて、アシスタントには「センスで買ってきて」と言っています。

──ファッション的なセンスだけがセンスではないと。

もちろん、ファッションセンスは大事だけど、そういうセンスこそ日常的に磨かれるものだと思います。本当にセンスのいい人というのは、日常的な感性を一番、大事にしていると思うんです。単調な生活の中で、どれだけ変化を見逃さないか、ということでファッションセンスも磨かれると私は思っています。 そこに気づければ、磨けるスピードも速い。気づかなくても勝手に磨かれる、無意識にセンスのいい人というのはいっぱいいる。鋭い人と鈍い人がいたとして、天性でセンスを磨ける鋭い人にはかなわないと思う。でも、鈍い人にもちゃんと教育をする、気づかせれば、一定のスピードで磨けると思っています。

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──アシスタントを採用するときはセンスを見ているわけですね。

そうですね。写真の上手い下手よりも……。写真を撮るときって自分の中でいろんな感性をフル活用するじゃないですか。でも、そういう感性を活用しない時こそ、活用しろよと。そのセンスが写真にも絶対、反映されると思っています。

(2015/11 大橋博之)

プロフィール
1978年、愛知県名古屋市に生まれる。筑波大学人間学類心理学専攻 卒業。
2007年、キヤノン写真新世紀優秀賞受賞。
国内・海外の展覧会で作品を発表しながら、今までに40冊の書籍を出版。
主な書籍に『むすめと!ソラリーマン』『SCHOOLGIRL COMPLEX 2006-2015』『絶対領域』『吉高由里子 UWAKI』『僕の妹は、写真家になりたい。』『台湾可愛 Taiwan Kawaii School Girl』など。台湾や韓国にて、翻訳版も多数刊行されている。
http://yukiao.jp/
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